千年の大計 雄安新区

千年の大計 雄安新区
今年2月、今世界から注目を集めている雄安新区の視察と、同新区が立地する河北省の政府との意見交換会の機会があり、参加してきました。
雄安新区とは
中国国務院は2017年4月、北京の南西約120km、河北省保定市雄県、安新県、容城県などの地域にまたがる約2,000k㎡の区画に、最先端テクノロジーが集積する未来都市を建設することを発表しました。この雄安新区構想は中国で19番目、21世紀になって初めての国家級新区構想です。北京(京)、天津(津)、河北省(冀)で「黄金の三角形」を形成する京津冀共同発展計画の一環であり、これら地域の不均衡の是正、北京の非首都機能の分散も意図されています。
これまで国家レベルの都市計画といえば、上海市浦東新区や深セン市などが知られていますが、雄安新区はこうした成功事例を目標にしていると言われています。
「千年の大計」とも呼ばれるこの巨大プロジェクトでは、初期の開発区画100k㎡の「起歩区」は2035年に完成。2050年をめどに人口1000万人の大都市とする目標です。
交通の面では、高速鉄道の「白洋淀駅」が既に近くにありますが、これがさらに中心地まで延伸され、高速鉄道4路線が乗り入れる予定となっています。また、今年完成予定の北京首都第二空港は、北京中心地から南に立地しているので、雄安新区から空港へのアクセスも良くなります。
この場所に、5G、AI、ビッグデータなどの先進技術を活用し、かつ環境にも配慮した「緑のスマートシティ」が建設されます。中国EC最大手のアリババグループ、IT大手のテンセントや百度(バイドゥ)は既に当地での登記を完了しています。
開発の現状
雄安新区は開発の端緒についたところで、特に目立ったものはまだありませんが、管理委員会や展示施設などが入る雄安新区政府市民センターは既に完成しており、見学が可能です。
私が参加した視察ツアーでは、バスは北京を出発し、約1時間半で一般車両の駐車場に到着しました。ここで専用の電動バスに乗り換えて市民センターに向かいます。センターは一般の見学客や、会社の登記に来たビジネスマンなどで賑わっていました。敷地内には充電スタンドを備えた駐車場、5G技術を活用した無人運転バスや宅配用の小型車両が展示されており、走行実験も行われています。スマホや顔認証システムを使った無人スーパー、無人ホテルもあり、先端技術のショーケースのようでした。
自動運転の小型バス
自動運転の小型バス
展示施設では、開発プロジェクトに関するパネル展示が行われています。「起歩区」の設計については世界規模で入札が行われ、日本を含む各国から200団体以上が応札。選考を経た12の設計案が模型で展示されていました。洗練されたデザインの高層ビル、鉄道や自動車道は地下に集約され、地上には人々の憩いの場が確保された、まさに未来を感じさせる設計の展示が印象的でした。
また環境対策として、広大な緑地「千年秀林」の開発と白洋淀の復旧が進められています。新区の70%以上を緑地や水域とするため、既に120種類700万本の木が植樹されたという造林があります。ここではすべての木にQRコードが付与され、一本ずつ生育状況が管理・記録されています。新区に隣接する白洋淀(「淀」は湖と沼の中間の深さの湖沼)では、半減した水域を復旧し生態系を回復するための調査やモデル事業が進められています。
雄安新区の今後
中国でこれまで計画されてきた新区の中で、雄安新区の強みは何よりも首都北京と国家中心都市の一つである天津に近く、交通の便も良い立地にあると考えられます。また、河北省政府によれば、新区全体をゼロから開発できる点も、他都市と差別化できる点であると認識しています。確かに開発予定地は、「ゼロ」と言ってもいいほど、近代的な建造物もまばらな広大な平地です。完成イメージと比較すると構想の巨大さが実感できます。ここにビジネスチャンスを狙って日本を含め各国から注目が集まっています。
少量ですが天然温泉と地熱資源も有する地域でもあり、「おんせん県おおいた」としては気になるところでもあります。
完成まで先の長い話ではありますが、経済交流の可能性と開発の動向について、今後も注視していきたいと思います。
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