上海に現れた新たな形態の小売店
日中経済協会上海事務所大分県経済交流室
(大分県上海事務所)藤原由博

上海に現れた新たな形態の小売店
日中経済協会上海事務所大分県経済交流室
(大分県上海事務所)藤原由博
はじめに
毎年11月11日の「独身の日」に行われるネット販売の大バーゲンセールでは、その日一日のアリババサイトの売り上げが1682億元(約2兆8千億円)となり、昨年の同日の売り上げ1207億元から39%増加し、他社も含めた同日の売り上げは約2540億元(約4兆3千億円)に達しました。統計公報によると中国の2016年のオンライン小売額は5兆元を超え、社会消費財小売総額に占める割合は12.6%となり、アメリカの8%、日本の5%台を大きく上回っています。ただ一方で、オンライン販売もライバル間の競争が激化し、コスト上昇、取扱商品拡大の限界などの問題があり、これまで通りのやり方で利益を増していくことは難しくなっています。
このような状況の中、アリババなどのオンライン販売側がオフライン販売に乗り出す事例が増えてきました。一方でオンライン販売に押され気味のオフライン販売側でも、完備されたサプライチェーン、実店舗の信頼感という強みを生かして、新たな事業を行う事例も見られるようになりました。今回はそれらの新たな取り組みについてご紹介します。
「蓋馬鮮生」
まずはオンライン販売がオフライン販売に乗り出した事例です。
「蓋馬鮮生」はアリババが投資したスーパーで、2016年1月上海に1号店をオープンし、現在(2017年11月)までに上海や北京などの5都市に24店舗を展開しています。「蓋馬鮮生」の特徴は、通常のスーパーのように店頭販売を行いながら、自前の専用アプリから注文を受け5km圏内に30分以内で無料配達をする点です。
実際に店舗を視察したところ、通常の店舗と同じように客が買い物をしており、一見すると普通のスーパーと変わりありません。しかしよく見ると、店の天井にはレールが敷設され、レールの下には落下防止の網がかけられています。店内では店員がバーコードの付いた専用の買い物袋を持ち、注文があった商品を袋に詰め、店内4か所に設けられたリフトに買い物袋を引っ掛けます(写真参照)。買い物袋は天井のレールを移動しバックヤードまで運ばれ、自社の配達員によって注文者に届けられます。
買い物袋をリフトに掛ける店員
中国では宅配システムが発達しており、宅配会社のアプリで注文すれば数十円の配送料でたいていの飲食店の料理を自宅で食べることができます。最近はスーパーも宅配会社のアプリに登録し、一部の商品をアプリで宅配することが可能になっていますが、購入できるのは一部の商品にとどまり、特に生鮮食料品の種類は多くありません。「蓋馬鮮生」もこのような宅配アプリに登録していますが、自前の注文アプリに比べ購入できる種類が少なく、また配送も有料になっています。
「繽果蓋子(BingoBox)」
オフライン販売が先端の情報技術を使って新たな事業に取り組む例もあります。
中国沿岸部を中心とした大都市に大型スーパーを展開しているオーシャン(本社:フランス)は、広東省中山市のITベンチャー企業と無人コンビニ「繽果蓋子」を立ち上げました。視察した上海の店舗(今年9月に閉店)は、プレハブ式の建物で通常のコンビニより狭い15㎡(約9畳)ほどの店内に、食品や日用雑貨を中心とした約500種類の商品が売られていました。
繽果蓋子の外観
利用方法は、まず入り口の2次元バーコードを読み取り、アプリをダウンロードし携帯番号を登録すると入り口の鍵が開きます。商品を選んだあと、レジカウンターに商品を置くと購入商品の合計金額が示され、携帯のアプリで支払い、出るときは手動で鍵を開けます。このコンビニは従来のコンビニに比べ、建設コストが1/4、人件費がゼロ、家賃も安いことから運営コストは従来の15%以下とのことです。
無人コンビニはアリババが杭州に「淘珈琲」を展開し始めるなど、「繽果蓋子」以外にも少しずつ広がりを見せ始めています。
おわりに
中国では大きな資金力を背景にトライ&エラーを繰り返しながら次々と新たなビジネスが展開されています。上記の2例についても現在の問題点を解決し、新たな参入者との競争を経ながら事業を拡大していくことが予想されます。今後も新たな小売りの展開に注目していきたいと思います。
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