日中経済協会上海事務所 大分県経済交流室 駐在員レポート

クルーズ船体験レポート

日中経済協会上海事務所大分県経済交流室
(大分県上海事務所)藤原由博

はじめに

2016年はクルーズ船による外国人の入国者数は199万人で2015年の111万人から78%も増加しました。また外国船社のクルーズ船の寄港回数も1444回と2015年の965回から大きく伸びました。このうち最も寄港回数の多かった港は博多港で312回、続いて長崎港190回、那覇港183回となっており、上位7位までが九州の港です。政府は2020年には500万人の目標を打ち出し、港の改修など各分野で対応を行っています。このように訪日客誘致の大きな柱になっているクルーズ船に乗船してきました。

基本情報

今回の旅行代金は2599元(約4万円)、行程は3/2 17時上海呉淞港発、3日終日船上、4日7時長崎港着 16時離岸、5日5時済州島着 13時離岸、6日8時上海着です。上海のクルーズ船の主要な発着港となっている呉淞港はクルーズ船が2隻並んで接岸でき、我々が乗船した際、同じ時間に福岡に向けて出港する別会社のクルーズ船が出発を待っていました。

今回乗船したクルーズ船はコスタクルーズのセリーナ号です(3780人乗り、11万4千トン)。コスタクルーズはイタリアに本社を置くヨーロッパ最大のクルーズ会社で、セリーナ号は2007年に初航海、2015年に中国路線を開始しました。船は14階建て、約1500の客室、19のレストランやバー、1350人収容できる大ステージをはじめ、プール、ジム、カジノ、ゲームセンターなどがあります。船上のネット環境は有料接続のみで、1日5ドル、5日間セットで15ドル。ただかなり遅いのでアップグレードする必要があり、5日間でプラス11ドル必要になります。なお、船内では現金が使用できず国際的なクレジットカードで支払いを行います。また、すべての乗客に1泊あたり800円~1700円のサービス料がかかり、これは船内で直接船会社に支払うことになります。


全員強制参加の救命胴衣着用訓練

今回の乗客数は約3300名で、うち半数近くの約1500名は2つの会社の社員旅行の乗客でした。中国人以外は私を含め日本人2名のみでした。また、乗客とは別に乗務員が1023名乗船しており、乗務員は一年のうち8か月を休まず船上で生活するとのことです。

船内の様子

船内では、イタリア語、ダンスなどの講座やクイズ大会、マジックショーなど各種のイベントが用意されています。ただ、このうち毎晩開催されるエンターテイメント以外のイベントは参加者が少なく盛り上がっている様子はありませんでした。乗客はレストランスペースで無料のジュースやコーヒーを飲み仲間とくつろぎ、船内の有料施設を利用する人はほとんどおらず、有料の飲み物を注文している乗客もほとんどいませんでした。

船上で終日を過ごす2日目には、2つの会社がそれぞれ午前と午後に大ステージを貸し切り、会社の総会やレクレーションを行っていました。クルーズ船には大きな会場があり、旅行価格も安いので、社員旅行の格好の選択肢になっています。


イタリア語講座

船上の免税店では宝飾品、酒、たばこの他、日本商品では、水筒、キャラターグッズ、茶葉、お菓子などが販売されていましたが、免税店全体はあまり賑わっている様子はありませんでした。また、長崎と済州島に寄港するにもかかわらず、寄港地に関する情報は船内では全く提供されていませんでした。


社員旅行のイベント

長崎港に上陸

長崎港には7時に入港しました。長崎港の松が枝国際ターミナルにはCIQ施設が新設され、入港管理局、通関、動植物検疫の担当者が入港の1時間前から施設に入り対応しています。下船時の混乱を避けるためグループに分かれて下船しますが、1つのグループが下船からバスの乗車までにかかった時間は1時間弱と非常にスムーズでした。担当者に聞いたところ、3,4月はほぼ毎日クルーズ船が入港し、乗船したコスタセレーナは毎週入港しているとのことでした。

用意されたバスは長崎、佐賀、福岡ナンバーで約90台、バスには現地ガイド(中国人)が新たに乗り込みます。行程は、9:15平和公園着、10:30グラバー通り着、12:00から14:20の間に免税店を2店回り15:00に長崎港に戻ります。2か所の観光地の自由時間は30分~1時間程度でガイドが特に説明するわけではなく、客は写真を撮って散策してバスに戻るという程度です。ただ、付近のドラッグストアやコンビニで大量の商品を買い込む人や、レストランで食事をする人もいました。

車中では現地ガイドが日本での生活を紹介しながら、日本人の健康の秘訣などに話題を移し、さらに日本で購入すべき健康関連商品等の紹介を行います。全く聞いたことがない商品ですが、免税店に着くとそれらの商品が販売されており、数万円する商品を買っていきます。免税店には大手メーカーの家電や化粧品といった有名商品も販売されていますが、こちらの商品は相場も知られているため市場価格で販売されていました。免税店の店員はほぼ全員が中国人で、店内とバス内は撮影録音禁止でした。

後日関係者に聞いたところ、ある格安クルーズでは中国側の募集主体が日本のランドオペレーターに乗客1名あたり300元(約5000円)で売り、日本の現地ガイドはさらにそのランドオペレーターから1名あたり1万円で買い、現地ガイドは客の購入金額の10%、ランドオペレーターも5%をマージンとして受け取っているとのことでした。

下船はとてもスムーズ

平和公園の様子

免税店

済州島に上陸

済州島に寄港したのは朝の5時。まだ暗い中、ライトアップされた龍頭岩を観光し、7:20に化粧品免税店着、8:20に新羅免税店着で11:20にフェリーターミナルに戻ります。新羅免税店は済州島2番目の規模の免税店です。4階建ての店内には世界中の有名ブランドのテナントが入居しており、多くの客が買い物をしていました。なお、済州島最大の免税店はロッテですが、ロッテ財閥は米軍のミサイル配備に対し自社の用地の使用を認めたことで中国側の不評を買い、急速に利用者が減ったということです。

免税店の前には買い物を終えた客が店の前にあふれていました。また朝から開いているレストランや喫茶店では免税店を見終わった客が食事をとっていました。これらの店の多くは人民元やアリペイ、ウィチャットペイといった電子マネーが使用可能でした。現地ガイドによると毎日クルーズ船が寄港するため、同じ光景が毎日繰り返されているとのことです。


新羅免税店

クルーズ船乗船中、3/15以降中国からの訪韓団体旅行が禁止されるという報道がありました。昨年の訪韓外国人は1700万人でそのうちの46%にあたる806万人が中国人です。そのうちの5割が団体旅行とのことなので、韓国の観光産業は大打撃を受けることになります。特に人口65万人の済州島は観光産業の占める割合が大きいため、深刻な影響を受けることが予想されます。

クルーズ船も韓国に寄港できなくなるため、クルーズ船社は日本での寄港地を増やそうとしていますが、日本側も様々な要因で受け入れを増やすことができず、多くのクルーズ船は船上で過ごす日を増やしています。済州島にあるような世界的なブランド店が入っているような免税店は日本にはほとんどなく、また一日3000人以上の乗客を新たに受け入れた場合現地では大きな混乱が起こることが予想されます。

最後に

上海の旅行会社を訪問すると、クルーズ船の影響でバスとガイドの手配が難しく、またイメージ的にも九州旅行=格安旅行とみなされ、飛行機を使った九州への団体ツアーの集客が難しくなっているということをよく聞きます。

実際に乗船すると、クルーズ船の乗客は寄港地で買い物をすることは楽しみにしても観光を楽しむという状況ではありません。長崎では一枚の観光パンフも渡されませんでしたので、寄港地の地名すら記憶に残らないかもしれません。ただ、バスに同乗した乗客からは、もっと観光したい、今度は飛行機で来てみたい、という意見も聞かれました。また、済州島では観光パンフが配布され、バスガイドが「今回は時間がないが、見どころがたくさんあるので次回は飛行機で来てください。」と案内していました。

現在、昨年の統計上毎日5千人以上のクルーズ船客が九州を中心に訪れていることになり、この中から5パーセントでもリピーターが出れば年間で10万人程に上ります。日本政府は今年4/21にビザ取得要件をさらに緩和しましたので、クルーズ船をきっかけに気軽に訪日する条件ができつつあります。限られた上陸時間内に如何にして再訪の動機づけをするのか考えていく必要があります。

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