中国の大都市交通を変える自転車シェアリングサービス
日中経済協会上海事務所大分県経済交流室
(大分県上海事務所)藤原由博

中国の大都市交通を変える自転車シェアリングサービス
日中経済協会上海事務所大分県経済交流室
(大分県上海事務所)藤原由博
はじめに
最近、上海の街中ではシルバーの車体にオレンジのホイールの自転車をよく目にします。これは北京摩拝科技有限公司が運営する「摩拝単車(MOBIKE)」(以下、モバイク)という自転車シェアリングサービスの自転車です。上海は地下鉄が14路線、バス路線も網の目のように張り巡らされていますが、公共交通機関を降りてから目的地までの「最後の1キロ」を不便と感じる市民もたくさんいます。この点に目をつけ2016年4月から営業を始め、瞬く間に上海市民の足になったのがモバイクです。
モバイクとは
モバイクが一気に普及した最大の要因は、この自転車が駐輪可能なところならどこでも乗り捨てできるからです。モバイクを使うためにはまず初期登録が必要になります。事前に決済機能を持たせたスマホに、モバイクのアプリをダウンロードして個人登録を行い、299元(約5千円)の保証金を払います。利用する際は、スマホで近くに駐輪しているモバイクを探し、2次元バーコードを読み取って鍵を外し、目的地に到着したら手動で施錠して終了。決済も自動で完了し、利用料金は30分1元(16円)です。
検索画面
もともと上海には市が設置する公共自転車がありますが、借りるところも返すところも決められているため、使い勝手が悪くあまり普及しているとは言えません。モバイクは乗り捨てができるという利便性がうけ、あっという間に上海市民に受け入れられました。気になるのはメンテナンスですが、この自転車はモバイクが独自に設計したもので、サドルを固定し、チェーンをシャフト式にし、タイヤはパンクがなく空気を補充する必要がないノーパンクタイヤで、重さが25キロと非常に頑丈な作りで、製造価格は3000元(約5万円)だそうです。
モバイク
自転車シェアリングサービスの展開
モバイクは元経済新聞の記者の胡瑋瓘という女性が創業したもので、2015年10月から数回にわたり民間企業による投資が行われ、100億円以上の資金を集めて事業展開をしています。サービスが始まった2016年4月以降登録者は増え続け、8月には北京、その後広州、深圳、成都に進出しました。2016年12月までに上海で10万台の自転車を投入する予定で、現在杭州市が設置している公共自転車7万1千台を抜いて中国最大の自転車シェアリング サービスになる見込みです。
同様のサービスとしては、「ofo共享単車」(以下、ofo)も有名です。これは北京大学の学生グループが広い校内を移動するために、学生自身の自転車を提供し目立つように黄色に塗って他人とシェアし、その後周辺の大学間でも乗り入れができるようにしたものです。ofoは全国19省市の200以上の大学で事業を展開し300万以上がユーザー登録しており、現在北京、上海、広州、深圳では市街地でも利用できるため、上海市内ではその黄色の自転車が見られるようになりました。この他にも「小藍単車」「優拝単車」など多くの同業者が登場しています。
ofo
公共自転車
問題と対策
モバイクが普及するにつれ、問題も出てきました。モバイクの自転車は耐久性等の理由から重量が重く、またサドルの高さが調整できないため、背の高い人や女性が乗りにくいという意見がありました。これに対して、モバイクは2016年10月から新たなタイプの自転車モバイクライトを導入しました。こちらは重さが25キロから17キロに減量され、サドルの調整が可能になり、かごも設置されました。しかもこちらの利用料金は30分0.5元(約8円)でモバイクの半額です。
またさらに大きな問題としては、一部の利用者によるマナーの悪さがあります。利用者が駐輪禁止の場所に駐輪し警察に撤去され回収コストがかかってしまう、自転車を隠したり他人の利用できないところに駐輪したりして私物化してしまう、また、盗難などの例もあるようです。
これに対してモバイクは、利用者の信用点数制度を導入しており、マナーの悪い利用者は減点され一定の点数を下回ると高額の料金が請求されることになります。またモバイクは2016年10月に上海市徐匯区と提携し、利用者の信用点数を徐匯区の社会信用システムと連動する予定で、区の信用システムは銀行融資を行う際の参考にされるため、利用者の行動をけん制する効果が期待できます。徐匯区にとってもモバイクの利用データを参考にして、自転車の利用率・駐車時間・ルートなどを分析し交通整備に生かすという利点があります。
最後に
モバイクの展開は、新規のプロジェクトに民間企業や投資家が資金を提供し、事業開始後に発生するニーズや問題点をその場で対応しながら実績を上げ、行政等と連携しさらに事業を拡大させていくという非常に中国らしい展開を見せていると思います。また、新たな事業が生まれたらその事業をまね、より安い価格で参入し結局価格競争になるというのも中国ではよく見る展開です。ただ、このサービスは中国の各都市が抱える「最後の1キロ」の移動手段や低炭素社会といった社会的な課題を解消する取り組みであるといえます。自転車シェアリングサービスがどのような展開を見せるのか、今後の動きに注目していきたいと思います。
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