中国人訪日旅行における上海の特異性と今後の見通し
日中経済協会上海事務所大分県経済交流室
(大分県上海事務所)藤原由博

中国人訪日旅行における上海の特異性と今後の見通し
日中経済協会上海事務所大分県経済交流室
(大分県上海事務所)藤原由博
はじめに
今年はオリンピックイヤーということで、4年後の東京オリンピックへの関心も高まっていますが、政府はその2020年に外国人観光客数の目標を4000万人としました。現状を見ると、2015年は1973万人となり、2014年の1341万人から47%も増加しています。中でも中国からの訪日客数が約499万人とほぼ前年の2倍で、台湾や韓国を抜き国地域別で第1位となりました。今年も熊本地震の影響を受けながらも6月までの半年間で前年比41.2%増となっており、このペースで推移すれば単純計算で、今年は700万人を超すことになります。
急増の原因
中国からの訪日客数は2014年から急増してきました。下図は中国人海外旅行者数(香港、マカオへの訪問を含む)と訪日・訪韓中国人数の推移を示したグラフです。このグラフを見ると、2010年から2015年の間に中国人の海外旅行者数が2倍近くに増加し、それに合わせて訪韓中国人数が3倍以上増加しています。これは経済発展により海外旅行に行く余裕ができた中国人が隣国の韓国に旅行をするという当然の流れといえます。なお、2015年に訪韓客数が減少しているのはMERS(中東呼吸器症候群)の影響とされています。
図1 中国人の海外旅行者数と訪日・訪韓客数の推移
ではむしろなぜ訪日中国人数はこのような伸びを見せなかったのでしょうか?これについて外務省関係者によると、「日本では東日本大震災や領土問題の影響を受け、旅行会社が訪日旅行を敬遠していた。しかし、2014年以降旅行会社も日本を旅行先に選ぶようになり、爆発的に伸び始めたと考えられる」とのことでした。このような背景と円安、消費税免税制度の拡充、関係機関の観光PR等により、現在の急激な増加につながっているものと考えられます。
上海からの訪日旅行の特徴
さてこのように中国人観光客数は増加していますが、その内容には変化も見られます。2015年に日本の大使館・領事館が中国人向けに発給した観光ビザのうち個人ビザの割合は全体の36%となり前年の27%から9ポイント増えました。この要因は、2015年1月からほとんどのクルーズ船搭乗客はビザが不要になったという背景もありますが、個人ビザの発給件数も3倍近く伸びていることから、より自由な旅行を選択する人が増えているためであると言えます。さらに2015年の上海総領事館のビザ発給件数を見ると、ついに個人ビザ発給件数が団体ビザ発給件数を逆転しました。
図2 中国人への観光目的ビザ発給件数
さて、上海総領事館がビザ発給を担当する地域は、上海市、江蘇省、浙江省、安徽省、江西省の5か所ですが、上海市とそれ以外の地域の旅行会社を比べると、訪日旅行商品の種類や内容に大きな差があります。まず、上海のほとんどの旅行会社は別府や由布院を含む九州の旅行商品を販売しており、少人数で県内に連泊するような旅行を手配している旅行会社も多いです。そのような旅行会社を訪問すると、別府や由布院以外の外国人の少ない観光地の情報を求められます。
一方、上海から高速鉄道で1,2時間ほどの蘇州、杭州、南京といった上海周辺の大都市でも、まだ訪日旅行のメインは東京・大阪などで、今後それ以外の旅行商品を作ろうとしている段階であり、九州の旅行商品は少なく、県内観光地に対する知識も少ないというのが現状です。
上海の旅行会社の現状認識
このように上海は中国の中でも訪日旅行の最先端を走っている地域と言えますが、今年6,7月に上海の旅行会社を訪問し現状や今後の見通しをヒアリングしたところ、以下の点を心配する声が聞かれました。
・景気悪化による影響
現在中国全体に漂う景気減速感の影響で、以前は数か月前から商品が売れ始めていたが、最近は1月前にようやく売れ始めるという状況である。多くの旅行会社の商品で赤字が出ており、体力のない旅行会社では倒産したところもある。
・円高の影響
当初の想定レートから1割も円高が進んでいるため、販売価格に転嫁しなければ採算が合わなくなっている。
・クルーズ船の影響
クルーズ船が入港する際には、バスとガイドが足りず金額も高騰するため、飛行機を使った旅行商品の造成が難しくなっている。また、クルーズ船で九州に寄港した客は九州はすでに旅行済みと見なしてしまう、クルーズ船で安く九州に行けるため九州は安い旅行先というイメージを持つ人も多い。
最後に
このように厳しい現状認識を持っている旅行会社は多いですが、一方で個人旅行客の増加をチャンスととらえ、客のニーズにこたえる商品づくりに勝機を見出そうという旅行会社も見られます。このような旅行会社では、観光資源を見るだけでなく体験や交流を重視しているため、多様な観光資源の情報を求めています。当事務所では今後もこのような旅行会社を中心に県内の各種の観光情報を提供し、県内各地への誘客を図っていきたいと思います。
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