中国と香港における流通コストについて
日中経済協会上海事務所大分県経済交流室
(大分県上海事務所)藤原由博

中国と香港における流通コストについて
日中経済協会上海事務所大分県経済交流室
(大分県上海事務所)藤原由博
上海に住み始めて1年が経とうとしています。上海の物価は高く、事務所付近で昼食を食べるとローカルの店でも30元程度で、 駐在当初は1元が約20円であったため、日本よりも割高に感じていました。現在は1元17円程になってきたため、当初より割安にはなってきましたが、帰国すると日本のランチのコストパフォーマンスのすばらしさには改めて驚かされます。
さて、日本人が上海に住むと一定レベルのスーパーにたくさんの日本食品が並んでいることに安心感を覚えます。ただ、その価格はレート変動や品目により一概には言えませんが、日本の価格の2~3倍程度になっています。一方、同じく物価が高いとされる香港では日本商品の価格は、これもレートや品目によりますが、日本の価格と同等か2倍程度に収まる場合が多いです。
なぜこのような状況が生まれるのでしょうか?今回は実店舗での価格調査や関係者からの情報を基に流通コストについて紹介したいと思います。なお、以下の流通コスト表は仮定して作成したものであり実際の商品の流通コストではありません。
中国での流通コスト
右図は日本で108円(税込)で販売されているジュースが、 上海のスーパーで販売されるまでの流通コストを表したものです。商社によると、ジュースは手数料を抑えて量で稼ぐ商材とのことでCIF価格は国内販売価格の6割程度に設定しました。
このCIF価格に対して関税、増値税がかかります。この時点ですでに国内販売価格と同じくらいの価格になりますので、中国の税率の高さがわかります。
中国では、新たな商品を小売店に仕入れてもらう際に導入費がかかることがあり、また棚代、販促費等を小売店から要求されることが多いようです。棚代は店舗や商品により20~30% とされ、この他に年間リベート等の費用が要求されるため、中国内商社が小売店に卸す際にはこれらの費用と自社の手数料を含めて倍の値段で小売店に卸すこともあるようです。さらに小売店では商品により、30~40%の手数料を取って販売するため、最終的な価格は国内販売価格の2.5倍以上になります。
流通コストイメージ(中国)
中国では不動産賃料が高いため、小売店としてもリスクを考え様々な費用を商社から徴収する必要があるとのことです。また消費者の購買意欲が高いため、このような価格でも売れるという状況もあるようです。
香港での流通コスト
次は香港です。右図は同じく日本で108円(税込)で販売されているジュースの例です。
香港では少量多品種の商品を取り扱う商社が多く、日本国内での商品探しや輸出手続きに複数の会社が絡むことが多いため、 CIF価格は中国の場合より高く設定しました。
香港では多くの輸入品に関税がかからず、ジュースにも関税はありません。国内輸送費、倉庫費には、輸入された商品を段ボールから出し、ラベルを張り、再包装して各小売店に配送する費用が含まれています。香港では人件費が高いため、このような作業費が高くなっています。香港商社の手数料は、商品により ますが15~30%で一般的な商品の場合は20%程度のようです。小売店も30~50%の手数料をとるため、最終的には日本の販売価格の2倍程度になります。
流通コストイメージ(香港)
ただ、数年前から香港では日本食品のディスカウントショップがいたるところで見られるようになりました。これらの会社では、日本から直接商品を輸入し各店舗に配送し自社の店舗で販売することで各種のコストを抑え、店頭では日本の価格と同等か1.5倍程度の価格で販売しています。これらの店舗の存在は、既存のスーパーにとって脅威になっているとのことです。
さいごに
中国では2015年にネット販売が前年より30%以上伸び、物品販売額に占めるネット販売の割合が1割を超え、実店舗を持つ小売店にとってネット販売は無視できない存在になっています。ただ、食品に関しては店頭とネットで価格にあまり差がなく、一気に店頭価格に影響を及ぼすという状況ではありません。これは、中国への商品輸入が難しいため日本商品輸入に参入する商社が多くないことと関係があるのかもしれません。
最近では、第57回上海熱線(2016年1-2月vol.104)で紹介した越境ECが注目されています。ただ、今年の4月8日からは越境ECに適用されていた割安な行郵税が適用されなくなり、一般貿易と同じ税金が課されるようになりました(暫定的な軽減措置あり)。 中国ではネット販売の進化や政府の新たな方針によって小売業界には様々な変化が起こることが予想されますので、今後も注目していきたいと思います。
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