保税区を活用した(越境EC)について
日中経済協会上海事務所大分県経済交流室
(大分県上海事務所)藤原由博

保税区を活用した(越境EC)について
日中経済協会上海事務所大分県経済交流室
(大分県上海事務所)藤原由博
中国に駐在して早いもので半年以上がたちました。私の生活において中国と日本の大きな違いの一つは携帯電話(スマートフォン)の役割です。中国では、買い物、グルメ、支払いと様々な生活シーンに対応したアプリがあり、財布を忘れても携帯は忘れるな、といわれるほどスマホは生活必需品になっています。私は、日本ではらくらくフォンを持ち、最低限のメールしか打たない生活でしたが、今ではスマホを駆使し、タクシーを呼び、出張の各種手配をたどたどしくですができるようになりました。
さて、前置きが長くなりましたが、中国では携帯やパソコン端末を活用したネット販売が非常に普及しています。11月11日(「独身の日」で中国最大のネット販売の日)には、中国最大のインターネットモールである「天猫」の売上げは、この日1日で912億元(約1.7兆円)を超えました。ネットで購入できる商品は、衣料、家電、雑貨などはもちろん、食品の購入も一般的で、日本からの輸入食品も販売されています。
スマホとアプリ
中国で日本食品を購入
中国から日本の商品を購入するには、例えば、楽天などの日本のサイトで買い物をし、 商品代と送料を払い、 自宅にEMSで配送してもらう方法があります。もちろん商品によっては輸入できないものもありますが、基本的に日本と同じ方法で購入することができます。ただこの場合、商品代と送料以外は不要と思っている人も多いと思いますが、本来このような輸入も個人荷物にかかる行郵税という税金の対象になる可能性があります。ただ、この行郵税は申告制であり、申告していないものを税関が検査をしようにも運ばれる荷物が莫大なので、結果的に検査を経ずに手元に届くというのが実情のようです。ただ、最近は検査に引っかかるケースも増えてきたと聞かれるようになりました。
そもそも日本商品が中国の店頭で安く購入できれば、このようなリスクのある買い物をする必要はありません。しかし現状で日本の商品は、食品の場合で日本の価格の2~3倍ほどで販売されています。その理由は、貿易手続きの中で、商品に対して関税、消費税、増値税がかかり、必要に応じて検査料など様々な経費が発生し、そのうえ運送料、小売店での棚代等がかかってくるためです。そのため、先述のようにリスクを冒しても、インターネットで日本商品を購入するという人がたくさんいるのです。
楽天ホームページ(中国語版)
中国政府の対策
常態化する個人輸入を、中国政府は新たな方法で管理下に置こうとしています。それは保税区を活用した越境電子商取引(越境EC)です。越境ECとは国境を超えたインターネット取引で、 先述の楽天での購入もこれに当たりますが、政府が導入しようとしているのはこれに保税区を活用する仕組みです。
まず、商社が商品を日本から輸入し、政府の関係機関に品目と数量を登録し、保税区内に保管しておきます。この時点では輸入商品に課税されません。その後、注文が入ると商社は税金を上乗せして客に発送します。商社は定期的に在庫を報告し、販売した分の税金を政府に納めるという流れになります。一見すると、結局税金を払うのでメリットがわかりませんが、課税金額がポイントになります。一般的な貿易では、上述したように関税、消費税、増値税といった税金がかかりますが、越境ECの場合は割安な行郵税のみが適用されます。また、現在のところ商品に対する検査も一般貿易ほど厳しくないようで、検査費用等その他の経費も抑えられているという状況もあります。なお、この取引対象はネットを通じたBtoC取引に限られています。
このように、増え続けるネットでの個人輸入を管理するため、中国政府は上記のような方法を推進していますが、上海市が運営する越境ECサイト「跨境通」を見ると、販売リストに海外商品はありますが種類は充実していません。例えば楽天で調味料を検索すると7万種類以上の商品がありますが、「跨境通」ではまだ数種類です。商品を登録するには中国に商品を保管していなければならないため、商品を充実させるには在庫リスクを抱えなければならないのですが、現状では魅力的なサイトとは言えません。
終わりに
実際に一般貿易を行っている商社の方に聞くと、越境ECの会社に商品を卸したところ通常必要になる栄養成分等の書類が要らなかった、商売としては簡単だったが、このまま検疫当局が黙っているわけがないので、今後食品検査が厳しくなってくるのではないか、ということでした。
保税区を活用した越境ECが今後どのような展開をみせるかわかりませんが、現在の貿易に大きな影響を及ぼす可能性もあるので、これからも注目していきたいと思います。
【 もどる 】 【 Top 】 |