日中経済協会上海事務所 大分県経済交流室 駐在員レポート

3年間の上海赴任を振り返って

【はじめに】

これまで3年間、当コーナーを担当してきましたが、この度上海での任期を終え大分へ帰ることとなりました。今回は3年間の上海勤務を振り返るとともに、最近の上海の状況等もお伝えしたいと思います。

【3年間の大変化】

今振り返ると上海駐在の3年間は、日中関係や日本の中国に対する見方が根本的に変わってしまった3年間といっても過言ではないでしょう。私が赴任したのは2012年4月でしたが、第1回目の上海熱線のタイトルは『ますます日本企業を惹きつける中国市場』でした。そのレポートの概要は、「中国、特に上海を中心とする華東地域は、第4次中国進出ブームであり、上海及びその周辺に住む日本人が急増している。」という内容でした。

ところが、その年は尖閣問題により日中関係が急速に悪化。9月には中国各地で大規模な反日デモ・暴動が発生し、日本人の中国に対する見方が大きく変化しました。また、その頃から中国の大気汚染等の問題が日本でも大々的に報道され、PM2.5という言葉が一般に知られるようになりました。多くの日本人に大気汚染が深刻な中国と言うイメージが焼きつけられ、帰国するたびに多くの人から中国の大気汚染のことを聞かれるようになりました。それまで日本中に溢れていた、「これからは中国の時代」という雰囲気が急激に冷めていくのを実感しました。


反日デモの最中、日本ラーメン店の入口にはこんな文字が

重度大気汚染時の事務所付近の様子

大気汚染指数が500を超えた瞬間(2013年12月)

【3年間の活動】

こうした大変化の中で、仕事上何が一番苦労したかといえば、県内の企業が中国市場に対する関心を急速に失ってしまったことです。これは大分県に限らず、どのこの在上海自治体事務所に聞いても同じ傾向でした。これまで中国への投資や輸出に関心を示し、あれだけ多くの企業が上海に来ていたのに、ぱったりと足音が絶えてしまった感じでした。

しかし、こうした「逆風」の中でも、以前のように大掛かりではありませんが、様々な県産品販売促進に取り組んできました。中国大陸においてはシティスーパーでの大分産スイーツの宣伝販売(12年4月)、瀋陽伊勢丹での九州物産展(13年1月)、上海港匯広場での日本商品展(13年2月)、上海伊勢丹九州物産展(13年10月)、FHC中国(13年11月)、上海髙島屋日本物産展(14年1月)、上海髙島屋九州・沖縄物産展(14年4月)、北京イトーヨーカドー日本食品フェア(14年7月)、北京イトーヨーカドー九州うまかもんフェア(15年1月)などを開催・支援しました。また、中国以外の市場にも県企業の関心が高まったことから、香港、マカオ、台湾、タイ、シンガポールでの活動が広がったことも大きな変化でした。香港では毎年8月に開催されるフードエキスポに出展した県企業を支援したほか、ユニーでの県産品販売(14年5月)やマカオニューヤオハンでの県産品販売(14年8月)を支援しました。台湾では台中の裕毛屋で県産品を販売支援(14年9月)。タイではTAIFEXに出展した県企業の支援(14年5月)に出かけました。さらに、シンガポールは13年10月に開催された大分銘品展の販売支援にも参加しました。

観光宣伝については、主に在上海の九州・沖縄各自治体事務所と連携した活動に取り組みました。物産展開催に連動した観光宣伝をはじめ、天皇誕生日祝賀レセプションや桜まつりなど、あらゆる機会を利用して観光宣伝に努めました。観光宣伝の成果については、最近中国からの訪日客が急増し、各地での買い物で地域経済にも大きなインパクトを与えていることが報道されていますが、特に中国からの訪日客の最大発出地は上海エリアであり、私たちの小さな取り組みも徐々に浸透してきているのだと感じます。

上海髙島屋九州・沖縄物産展

シンガポール大分銘品展

天皇誕生日祝賀レセプション会場での観光宣伝

【中国市場の実情を伝える】

物産販売、観光宣伝の取組とはほかに、少しでも県内企業の皆さんに中国に対する関心を持っていただくことを目的に、連続インタビューをこのコーナーに掲載することとしました。インタビューに登場する方も大分県出身者を中心にし、読者の皆さんができるだけ身近に感じられるようにしました。これまで11人の方にインタビューに登場していただきましたが、皆さん中国市場の成長性、将来の市場開放について明るい展望を持ていらっしゃいました。 インタビューの中で私が伝えたかったのは、中国市場の実情を伝えることももちろんですが、これからの海外展開を考える上では、人の意見を参考しつつも、各個人が自らの目で中国なり、その国の市場を見ることが大切であり、是非皆さんに中国市場、海外市場を見ていただきたいということでした。

【世界の情勢】

本稿執筆中の2015年4月初旬現在、中国が主導するアジアインフラ投資銀行に50カ国を超える国・地域が参加しようとしています。また、中国は一帯一路という、中国西部から中央アジアを経由してヨーロッパに向かう「シルクロード経済ベルト」(一帯)、中国沿岸部から東南アジア、インド、アラビア半島、アフリカ東岸を結ぶ「21世紀海上シルクロード」(一路)での交通インフラ整備、貿易促進を推し進める構想を発表しています。構想が実現すれば世界経済に大きなインパクトを与えます。中国に対しては様々な見方がありますが、好むと好まざるとに関わらず、世界第2位の経済大国として、当面中国が世界で存在感を示していくことは確実と思われます。また、世界の貿易をめぐっては、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)やRCEP(東アジア地域包括的経済連携)、日中間FTAなどが協議されている最中です。また、最近の日本における外国人観光客の急増といった現象も考えると、これからの地域経済も益々世界の動向と深く結びついていくことになると思われます。

【最近の上海の状況】

当事務所のある上海でも、この3年間に大きな変化が起こっています。まず挙げられるのは、日本商品を置く百貨店、スーパーの増加です。思いつくままに挙げても、上海髙島屋、久光百貨フレッシュマート虹橋店、シティスーパー大時代広場店、シティスーパーAPIM店、アピタ、大丸などが相次いで開業し、日本商品を売る場が大きく増えました。また、浦東の金融地区には森ビルよりも140m高い上海タワーが建設中で、今年夏にオープンする予定となっています。また、注目の上海ディズニーランドは、来年2016年春に開業予定です。中国市場が日本から注目されなくなって久しいですが、現地は着実に変化しており、日本の地域経済もこうした流れに置いていかれないようにすることが大切です。


上海の高層ビル群。右の高い建物が上海タワー

【おわりに】

こちらにいると毎日、日本、中国双方の報道に接します。中国の日本に関する報道も問題がありますが、日本メディアの中国に関する報道にも違和感を覚えることも少なくありません。これは中国に駐在している日本人が大なり小なり抱いている感覚です。繰り返しになりますが。企業活動が海外の動向と無関係では考えられない現在、マスコミ報道や人の話だけでなく、経営に携わる皆さんには、やはりご自身の目で海外市場を見ることが重要です。そうした方々を支援するために当事務所は存在しており、今後もご遠慮なくご活用いただければ幸いです。

最後になりましたが、在任中は多くの方々のご支援ご協力のもと、業務を遂行し、家族で上海生活を送ることができました。お世話になった方々全員に感謝の意を表し、レポートを締めくくりたいと思います。3年間読んでいただき本当にありがとうございました。

3年間の活動概要や当コーナーのインタビューは、当事務所のホームページにも掲載されています。ご興味のある方は是非ご覧ください。

(http://www.pref-oita-shanghai.cn/index.html)

【 もどる 】    【 Top 】