中国へのサービス業進出について
上海恩必思運輸有限公司 十時庸介 総経理 インタビュー

中国へのサービス業進出について
上海恩必思運輸有限公司 十時庸介 総経理 インタビュー
【はじめに】
海外へのサービス業進出が勢いを増してきていると言われますが、私の見るところ大分の県内企業で海外、特に中国に進出しているサービス業は他県と比べ多いとは言えない状況にあります。
そうした中で、今回は上海で活躍する県内企業として、日田市に拠点を置く株式会社NBSロジソルにご登場いただきました。インタビューのお相手は同社の上海現地子会社、上海恩必思運輸有限公司の十時庸介総経理です。同社がどのようなビジネスプランで上海、中国で事業を展開しようとしているのか、お話しを伺いました。
「十時総経理の中国との関わりは?」
「初めて中国を訪れたのは1995年、高校生の時に旅行した香港でした。当時香港は中国返還直前の英国領でしたが、バブルが弾けて長い不況に陥り暗い雰囲気が漂っていた日本と異なり、街は活気に溢れ、日本には無い人々の「パワー」を感じたことが非常に印象的で、中国という国に興味を持ちました。それがきっかけで大学時代に中国語を学び、留学や一人旅で中国各地を巡ったりしながら中国の歴史・経済・文化など自身で勉強しました。幸いにも就職して2年目から中国に工場を持つお客様を担当する事となって仕事上においても中国と接点ができ、それ以来中国と関わり続け、現在上海に駐在する身となっています。今年で中国滞在8年になります。」
十時総経理
「NBSロジソル及び海外での拠点について簡単にご紹介ください。」
「弊社、「株式会社NBSロジソル」は、社員数900名、本社は日田市。関東・中部・関西・九州に支社・営業所を置き日本全国約40か所の拠点ネットワークを生かしたトラック輸送・倉庫・建材物流・3PL事業・国際物流などの総合物流サービスをお客様にご提供しております。LIXILグループ様、ブリヂストン様など大手メーカーをはじめ、全国各地のお客様とお取引させて頂いております。近年は通関・海上フォワーディングといった国際物流事業にも力を入れ、国際海上フォワーディング事業認可、及び東京・大阪・門司・博多での自社通関免許を取得。海外においては中国大連、上海にそれぞれ現地法人を設立し、日中間の国際複合輸送を中心に事業展開をしております。」
「中国での事業展開についての経緯をお伺いします。」
「弊社が最初に中国に進出したのは2003年。弊社の主要なお客様が中国への進出を進める中、お客様の中国での物流ニーズに対応するため、遼寧省大連市に弊社最初の中国現地法人である「日豊物流(大連)有限公司」を独資で設立。自社トラック輸送、日中間の国際複合輸送など中国での物流事業を開始しました。その後2008年に一度上海に拠点を設立しましたが顧客の撤退の影響もあり2010年に一旦閉鎖。しかし、上海・華東地区の輸送市場を取り込むため再び上海へ進出、2013年に新たに「上海恩必思運輸有限公司」を設立しました。このように、弊社の中国での事業展開は決して成功ばかりではなく、失敗もありました。試行錯誤を繰り返しながら、しかし着実に中国での事業展開を進めております。」
インタビューに応える十時総経理
「海外、特に中国での事業展開を推進するのはなぜでしょうか?」
「弊社は物流企業としてメーカーであるお客様のサプライチェーン構築に密接に関っており、その輸送網に関ることが非常に重要になります。中国が経済の改革開放政策を進め、「世界の工場」としての地位を確立して久しいですが、その間にネジのような小さな部品を作る工場から完成品に近い物を作る工場まで、様々な工場が世界中から中国に集結し、巨大な産業ピラミッドが出来上がりました。近年「チャイナ・プラス・ワン」という言葉が流行り、人材確保やコスト面、政治情勢など様々な理由で実際に東南アジア各国に新たな製造拠点の設立、移転を進めているメーカーも多くありますが、中国という巨大な市場・調達拠点は簡単に他に取って替えられるものではありません。中国に工場を持ち、ベトナムに新たに工場を設立した我々のお客様も、ベトナム工場の主要な部品調達先はやはり中国なのです。また、これまで日系企業は日本⇔中国、日本⇔東南アジアといった日本を中心とした輸送がメインでしたが、最近は日本を通らない中国⇔東南アジアのような物流も増えてよりグローバルな物の流れとなっています。今後、中国の巨大市場に対応するというだけでなく、こういったグローバルな動きに対応するためにも、その中心である中国に拠点を持ち、お客様のニーズをいち早く掴み最適な物流サービスを提供することが重要だと考えています。」
「上海恩必思運輸有限公司が中国で目指すビジネスモデルはどのようなものでしょうか? また貴社ならではの強みも教えて下さい。」
「上海法人は設立してまだ2年目で会社の規模も大きくありませんが、大連法人はすでに11年の実績を持ち、弊社全体としての中国での物流事業の実績は豊富です。弊社は日本の自社拠点ネットワークの充実が強みであり、それら国内ネットワークと中国拠点が連携して中国・日本トータルでの低コストで最適な物流サービスをご提案、ONEウィンドウで貨物の受取りからお届けまで対応するDoor to Door輸送サービスをご提供することが可能です。また弊社は大連・上海法人ともに自社社員ドライバーによる自社トラック輸送を行っており、自社管理による高品質の輸送サービスをご提供できることも強みです。」
上海恩必思運輸有限公司のドライバーと自社トラック
「海外での事業展開で苦労する点は何でしょうか?」
「身近な文化・慣習の違いや、頻繁に変わる法律・税制度、従業員の管理など日ごろ苦労している点は挙げれば切りが無いです。これらよく挙げられる点以外に、我々サービス業で苦労している点もあります。最近、「ジャパン・ブランド」を掲げ、とりわけ高品質の「日本式サービス」を売りに海外進出する日本のサービス企業が増えていますが、弊社も日本式の高品質な物流サービスを中国で、主に日系メーカーのお客様に提供することを売りとしています。しかし、様々なお客様の声をお聞きすると、中国では必ずしもすべてにおいて日本と同じような手厚い日本式サービスを求めている訳ではない、ということを実感しています。お客様から見ると、貨物の種類によって、輸送に高品質を求める場合、逆に品質が劣っても価格が安い方がよい場合があります。日本企業はどうしてもすべてにおいて日本と同じ高品質を求めてしまいますが、問題は、高品質な日本式サービスはコストが高い、ということです。一方で、中国ローカル系物流会社はサービス品質が日系より劣りますが、お客様のニーズに応じてコスト面で柔軟に対応することが出来、これが強みとなっています。日系メーカーのお客様でも日系と中国系の物流会社をうまく使い分けているところもあり、我々の脅威となっています。「日系物流会社は費用が高い」とお客様からお叱りを受けることもあります。我々の売りである日本式サービスの質を落とさず、いかにコスト競争力を持ってお客様のニーズに合った物流サービスを提供できるか、非常に悩ましいところです。」
事務所スタッフと
「県内からサービス業で海外に進出しようとする企業にアドバイスがあればお願いします。」
「中国経済の成長率伸びが鈍化していると最近よく報道されますが、これから中国経済は転換期に入ります。中国政府は、これまでの高成長のモデルであった投資・輸出主導の成長から、消費・産業高度化主導の成長への構造改革を進めています。そのような状況の中で、中国の第3次産業の成長率の伸びは顕著で、2013年に初めて第2次産業の成長率を上回りました。今後、衰退必至の労働集約型産業に代わり、中国で第3次産業、特にサービス業が中国経済の中核を成すことは間違いありません。これからサービス業を中国で事業展開することは、大きなチャンスであると考えています。一方で、我々のような物流サービス事業を行う企業をはじめ、すでに様々なサービス業の企業が中国で事業展開しており、競争は非常に激しいです。中国という国は想像以上に大きな国であり、日本のように全国津々浦々、一律に事業展開することは不可能に近いです。どの地域で、誰をターゲットとして、どのようなサービスを商品とするのか、基本的なマーケティングが非常に重要となってきます。これが明確でないと中国の広い国土の中、暗闇で弾を撃ち続けるような事態になってしまいます。中国での事業展開において同じ県内企業として我々NBSロジソル・グループがご支援できることもあるかと思います。物流でお困りの事がありましたらぜひご相談ください。」
「本日はありがとうございました。」
【終わりに】
今回のインタビューで出てきた興味深い指摘の一つは、日本企業の日本品質にこだわる弊害です。例えば自動車産業においても、日系メーカーが日本と同様の高品質な車づくりにこだわることに対し、ドイツメーカーなどは、中国で入手できる、とりあえずの品質の部品で完成車を製造し、中国での市場獲得に成功したなどの話を聞いたことがあります。
国外市場では、その国の発展段階に応じて、市場が求める価格と品質があり、日本で成功したモデルをそのまま持ってきても成功は難しいのだと思います。このことは、製造業に限らず、運輸業、飲食業などのサービス業にも当てはまるのではないでしょうか。
(本稿は12月2日に行われたインタビューを八坂が編集したものです。インタビューの内容は個人の感想・意見であり、中国進出の成功を保証するものではありません。)
プロフィール
十時庸介(とときようすけ)
1978年日田市生まれ、大阪育ち。2001年にニッポー物流サービス株式会社(現・株式会社NBSロジソル)入社。入社2年目より日中間の国際輸送部門に従事し、以来、中国の物流業務に関わり続ける。2008年に山九株式会社へ移籍、同社香港法人に赴任。2012年株式会社NBSロジソルに復帰し上海へ赴任。上海法人「上海恩必思運輸有限公司」の立ち上げを行い、2013年3月総経理に就任。
趣味は中国及びアジア各国へ一人旅と旅先での一眼レフ撮影。座右の銘は「艱難汝を玉にす」。
【 もどる 】 【 Top 】 |