日中経済協会上海事務所 大分県経済交流室 駐在員レポート
インタビュー「中国への輸出拡大について」
鈴渓(天津)国際貿易有限公司 君島董事長兼総経理

【はじめに】

中国への輸出拡大をテーマとするインタビューの第2弾は、日本から中国への食品輸入を手掛け、現在では地方メーカーを含む約50社の正規代理店となっているモリタフーズ株式会社(東京都)の現地法人である鈴渓(天津)国際貿易有限公司の君島総経理へのインタビューです。


「中国の現地法人である鈴渓(天津)国際貿易有限公司についてご紹介願います。」

「鈴渓(天津)国際貿易有限公司は1997年に設立した会社で、北京・天津を中心に事業を行っております。事業内容は、日本からの食品輸入、中国国内の日系企業からの商品調達、日本料理店を中心とする業務店向け卸売、百貨店・スーパー・コンビニエンスストア・ネット販売などの小売店向け卸売、百貨店・スーパーでの日本食品コーナーの受託などを行っています。」


君島総経理

「鈴渓(天津)国際貿易有限公司はどのような日本食品を取り扱っていますか?」

「皆様ご記憶の2011年3月11日東日本大震災以前は、ヤマサ醤油やブルドックソース、キーコーヒー等のナショナルブランド(NB)を中心に輸入・販売活動をしておりましたが、放射能の規制の問題から10都県(福島、宮城、群馬、栃木、茨城、埼玉、東京、千葉、長野、新潟)の商品は輸出ができなくなってしまいましたので、現在では、地方自治体とのコラボレーションにより積極的に地方の良質で美味しい商品を中心に取り扱っております。中国では厳しい輸入制限がありますので、現状では、酒類(日本酒・焼酎・ワイン・ビール)・味噌・醤油・各種調味料・香辛料・麺類・ジャム・一部スイーツといったものが中心となっています。国内調達商品としては、ビール・味噌・醤油・各種調味料・麺類・乾物・漬物・総菜・冷凍食品等となっております。」


「中国で売れる日本食品はどのようなものですか。どのような特徴があるのでしょうか?」

「これはなかなか難しい質問ですね。中国は大変広い国で気候も民族も地域毎に異なります。そうなると食習慣や味覚や志向も多様ですので、全てに売れる商品というのはなかなか見つかりません。共通して言えることは、次の3つのポイントです。一つ目は「食べ方がわかりやすいもの」二つ目は「パッケージデザインが既存の中国商品と差別化できていること」。三つ目は「受け入れられやすい商品名であること」です。もともと醤油文化圏ですので日本の味は受け入れやすいのですが、パッケージを見ても食べ方が判らないのでは絶対に売れません。従って、どのように使い方・食べ方を伝えるのか?ということが重要となります。パッケージにシズル感がある写真等使用し、何に使うのかを明確にしてあげることが一番簡単な方法でしょう。あとは商品のネーミングですが、中国人は「ネーミングの意味」、「音の響き」、「縁起の良い名前」等を重要視しますので、それを十分踏まえて商品名を変えることも重要です。」


インタビューに応じる君島総経理

「鈴渓(天津)国際貿易有限公司が取り扱っている日本商品を買っている消費者はどのような階層の方でしょうか?」

「基本的にはホワイトカラーが中心です。この顧客層は、ある程度経済的に余裕があり、安全志向、健康志向、美容志向が強い方々です。中国では食品安全の問題が国全体の問題となっており、消費者は食品安全に対して大変強い関心を示しています。日本の食品については安心安全という「日本神話」が強くありますので、これを意識している消費者が購買の対象となっています。」


鈴渓(天津)国際貿易有限公司が取り扱う二反田醤油店(中津市)の商品

「北京で売れるもの、上海で売れるものなど地域によって売れ筋が異なることなどはありますか?」

「中国は広く他民族ですので地域的な差はあります。売れ筋商品が違うポイントは幾つかありますが、これは都市機能の違いとか、気候と習慣の違い、文化の進み具合の違いが大きく影響しているといえます。特に、中国では沿岸部と内陸部の文化レベルの差が大きく、それに比例して食文化の差も大きいことから文化的に進んでいる沿岸部ではドレッシング等の比較的新しいし調味料の売れ行きが高いのですが、内陸部では醤油や既存の中国の調味料に近いものしか売れないというのが現状です。」


「今後、君島総経理が中国で受け入れられると思う日本食品、商品はどのようなものですか?」

「健康に訴えるものが一番売れると思います。ただし、健康食品ということではありません。例えば、中国で数年前に大ブレークして既に定番となっている納豆が良い例です。あくまで普通の食品ですが大変健康に良いということで爆発的に売上が伸びています。中国人は健康コンシャスですので、それに向けた商品が売れています。一般食品で考えると「減塩」とかが大きなキーワードとなります。弊社も山形JAや福岡のツル味噌さんとの取り組みを行い、「減塩」をキーワードとした新しい味噌を開発し発売をする予定です。」  


鈴渓(天津)国際貿易有限公司にて

「中国への輸出を目指す日本の食品メーカーへのアドバイスがあればお願いします。」

「私は、日本でのセミナーや商談会で繰り返し申し上げておりますが、近年中にFTA、TPPに参加することは間違いないと思います。それに向けて各企業が「今なにをするべきなのか?」を良く考えるべきだと思います。中国では、人件費の高騰や不正の横行、物流コストの増加、確立できない安全管理等により、日系食品製造会社の撤退が多数で出おりますが、その反面、中国人自体が中国メーカー製の食品を信用しないことは今後も継続すると思います。この両方は、日本の地方企業にとってはチャンスなのです。関税が無くなり物流コストだけでメイド・イン・ジャパンの商品が中国市場に展開出来れば、間違いなくアドバンテージとなります。そのゲートが開く前、すなわち、FTA・TPPが施行される前に、中国市場に対して他社より先に「自社ブランドを売る」「商品を認知させておく」ことは将来の成功に繋がるポイントとなるはずです。現時点では、商標登録だけでも3年の期間が必要です。ゲートが開く前に、商品のネーミングやその登録、テストマーケティング等をしておけば、他社より一歩も二歩も先に行くことは間違いないでしょう。今は中国輸出で大儲けするということを考えず、まず継続的に市場へのアプローチを続けることを念頭に置き、早いスタートを切ることお勧め致します。」


「本日はどうもありがとうございました」

【終わりに】

さすがに、中国向け輸出の専門家だけあって、分かりやすく、的確に中国輸出のポイントをお話ししてくださいました。パッケージの差別化や健康志向、ホワイトカラーが消費の中心であるとの話は、前回のインタビューに登場した上海逍龍信息貿易の王総経理と共通する部分があったように思います。今回はそれに加え、「ネーミング」や「音の響き」、「縁起の良い名前」など、日本から考えていただけでは気づかないような点も指摘がありました。鈴渓(天津)国際貿易有限公司は2004年から北京・天津の両地域で年1回日本食材の料理店・小売店向けの展示会を開催しており、近年は主に山形県、三重県、福岡県、鹿児島県などの企業が参加し、大きな成果を挙げています。鈴渓(天津)国際貿易有限公司との相談・取引を希望する県内企業がありましたら当事務所へご連絡ください。  

(本稿は4月23日に行われたインタビューを八坂が編集したものです。インタビューの内容は個人の感想・意見であり、中国への輸出の成功を保証するものではありません。)


プロフィール

君島英樹(きみしまひでき)

1960年生まれ。神奈川県出身。1997年モリタフーズ取締役に就任後、同年「鈴渓(天津)国際貿易有限公司」を設立し、董事長兼総経理に就任。2003年モリタフーズ代表取締役就任。現在、農林水産省や地方自治体の中国向け輸出セミナーの講師をはじめ、山形県国際経済戦略委員会委員、福岡県アジアビジネスセンターのアドバイザー、四日市商工会議所アドバイザー等を務め「中国食品輸出の第一人者」と言われている。趣味はゴルフと食べること。趣味を活かし、地方のメーカーとコラボして新しい商品の開発も数多く手がけている。ゴルフは「君島会」を主催している。


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