日中経済協会上海事務所 大分県経済交流室 駐在員レポート
連続インタビュー 「中国ビジネスの今後について」 ~中国在住の大分県関係者に聞く~

【はじめに】

みなさん、JR九州フードサービスが運営する「赤坂うまや」というレストランをご存じでしょうか。「赤坂うまや」は2012年に上海に進出しましたが、短期間のうちに上海の日本料理店で最も有名な店舗の一つとなり、日本人駐在員で知らない人はいないほどの人気店となりました。中国への飲食店進出については県内にも興味を持たれる方も多いことと思います。今回は大分県出身の中井店長に、どうして「赤坂うまや」がこのような人気店に成長したのか、また、中国での飲食店経営のカギは何なのかなどについて、じっくりとお話しをお伺いしました。」


「JR九州フードサービスが上海に進出しようとしたきっかけをお聞かせください。」

「JR九州フードサービスが運営する『赤坂うまや』は、2002年に東京1号店を開店し、現在では6店舗を東京で展開しています。2011年にはJR博多シティーの開業に伴い、同時に博多シティー内と駅ビルに6店舗をオープンすることが出来ました。『赤坂うまや』のブランド化を更に推進し、もっと大きなマーケットで挑戦したいという思いから中国で最も成長し続けている上海という地を選び出店しました。」  


中井店長

「現在の上海『赤坂うまや』の状況はどうなっていますか。また、日本人客と中国人客の割合や売れ筋メニューなども教えてください。」

「2012年の反日デモ後、一時的に客数の落ち込みがありましたが、現在は大気汚染や円安による日本人の消費落ち込みなどマイナス要因が多い中、沢山のお客様にお越しいただいています。開店当初の客層は、日本人が9割、中国人が1割くらいでしたが、現在は、日本人3割、中国人7割と逆転しています。また、昨年5月には上海のうまや2号店となる麺業態の店舗『うまやの麺麺麺』が開店しましたが、1号店と同じメニューが安価で提供され、お客さまもTPOに合わせて使い分けていただいており好調です。売れ筋は、日本人、中国人問わず、明太子の玉子焼きやチキン南蛮です。また、今は季節柄、7割のお客様が鍋を注文されますが、特に豚骨ラーメンスープで食べる黒豚しゃぶしゃぶが人気です。」



黒豚しゃぶしゃぶ

「うまやの1号店を開店するときに場所選びに大変苦労なさったときいていますが。今の場所を選んだ理由は何でしょうか。」

「東京の『赤坂うまや』は、2階建ての1軒屋ということもあり、まず戸建ての物件にこだわりました。また、ターゲットはあくまで中国人だったので、場所も日本人が多く住む地域ではなく、上海市の中心地である静安区を選びました。確かに場所選びには半年以上の時間がかかりましたが、妥協せずに現在の店舗を確保したことが今日の成功につながったと考えています。」


インタビューに応える中井店長

「上海には多くの日本料理の店がひしめいていますが、うまやは何を売りにして、他店との差別化を図ろうとしているのでしょう。」

「中国人の多くが利用している最大の口コミサイトでは、レストランを評価する基準を、環境・料理(味、価格)・サービスの3つで評価しています。特に環境(内装、外装、高級感)は店選びをする際、とても重要視しているようです。予約されるお客様のほとんどが、個室や静かな席を希望されます。うまやは、戸建ての利点を活かし様々なシーンで対応出来る店構えになっています。料理に関しては、一番だしを取り、ほとんどが手作りで、味付けも日本と同じにしています。価格は多少高めの設定ですが、割高でも本物志向のお客様には受け入れられているようです。ランチは逆にお値頃な価格設定とボリュームで、ディナーでは見られない若いお客様の層も取り込んでいます。また、サービスに関しては、日本語力や経験よりも人柄重視で採用するようにしています。人件費も高騰し採用が難しくなってきましたが、1年足らずで退職する従業員が多い飲食業界の中では他店に比べて離職率も低く、安定したサービスが実現できています。この“安定させる“が中国では難しく、店を清潔に保ち、味、サービスを安定させていることが他店との差別化になっているのだと思います。」


「開店当初想定していたことが、営業を続けるうちに変わってきたということなどはありますか。」

「開店から1年くらいは、日本人比率が高かったこともあり、アルコールの売り上げが大きかったのですが、それ以降はアルコールを飲まれるお客様が大きく減ったことが挙げられます。中国人のお客様が全体の約7割を占めますが、アルコールを飲まれる中国人のお客様はそのうちの2割くらいではないでしょうか。アルコールメニューの売れ行きは、アルコール売上げが占める割合が高い居酒屋業態では、客単価に大きく影響します。そうしたことに対処するため、料理のアイテムを増やし、高級海鮮を導入することで、逆に客単価は上がり、新しい中国人顧客の開拓にも繋がりました。」


「上海や中国における飲食ビジネスの見通しについてはどうお考えですか。今後の日本企業にチャンスはあるでしょうか。あるとすればどこに注意してビジネスを行う必要があるのでしょうか。」

「上海では、次々に新しい日本料理店が開店し、また、同じ数だけの料理店が閉店していると言われています。人件費の高騰、家賃の上昇、駐在員の減少、円安による個人消費の落ち込みや企業の経費節減など飲食店には厳しい環境が取り巻いており、益々勝ち組と負け組みがはっきりしてくると思います。しかし、中国では割高でも安全な食材を求めたり、健康に気遣う人が増えたりしていることを考えると、日本料理、特に日本企業が経営する日本料理店のニーズは間違いなくあると思いますが、同時に様々なリスクと向き合う覚悟も必要です。今、当社が直面している最大の課題は、“人材”です。私が知る飲食業に関して言えば、労働力の中心は地方出身者であり、多くの方は3年から4年で地元に帰ってしまいます。当社の場合だと、少し仕事を覚えると給料アップを目指し6ヶ月くらいで転職したり、日本の様に年1回の昇給では待ちきれずに退職したりしたケースもあります。もちろん、お金だけが理由ではないと思いますが・・・。その時、感じたのは、人事制度の重要性です。短期的に報奨金制度などを取り入れた事もありますが、それは一過性のもので、従業員満足には繋がらなかったように思えます。採用面接で「店を選ぶ基準はなにですか?」とよく質問するのですが、多くの場合、1番がやはり給与、2番目が上司や同僚とのコミュニケーションが取れていることと答えています。特に2番目のコミュニケーションは簡単ではないですが、解決できる課題です。給与に関しては、企業ですから当然利益が出て初めて成り立ちます。その上で長期的に従業員を育成できる人事評価制度ができるまで変化し続ける柔軟性が必要であると思います。」


上海うまや入口にて

「JR九州フードサービスは今後、海外でどのような展開を図る予定ですか。」

「『赤坂うまや』1号店は、3月で開業から3年目を迎えます。昨年は2号店となる麺を中心と「うまやの麺麺麺」を開店する事が出来ました。今年2月には3号店として、初めてショッピングモール内に『うまや准海中路店』をオープンいたします。今後は上海での新規出店に加え、アジア諸国での出店可能性も調査していこうと考えています。」  


「本日はありがとうございました。」


【終わりに】

これまでインタビューに応じてくださった方々も指摘していましたが、「本物志向の料理」、「店のロケーション」、「安定したサービスの提供」、「客を飽きさせないメニュー、店舗づくり」、「人材採用や人材育成の重要性」などの話が今回のインタビューでも聞かれました。やはり中国でビジネスを成功させるには、ある共通したキーワードがあるようです。

飲食業に限らず、中国でのビジネスに挑戦したい方は是非参考にしてください。また、こうした方々のお話しを上海で直接聞きたいと希望する方がいらっしゃいましたら、当事務所でアレンジできますので、お気軽にご相談ください。

(本稿は2月12日に行われたインタビューを八坂が編集したものです。インタビューの内容は個人の感想・意見であり、中国での事業の成功を保証するものではありません。)


プロフィール

中井浩三(なかいこうぞう)

1964年大分市中島出身。大分上野丘高校卒。福岡大学卒業後、西洋フードシステムズに入社、店舗管理などの仕事に従事。2002年「赤坂うまや」が東京進出した年にJR九州フードサービスに入社。2011年より上海での「赤坂うまや」の事業展開のため上海現地会社に出向。現在、店舗開発、メニュー開発など新店の準備を進めながら、静安本店(1号店)の責任者として従事している。趣味は職業柄食べ歩き。「おいしい」とか「おもしろい」という噂を聞くと和洋中中身を問わず必ず駆けつける。食べ歩きで仕入れたメニューをアレンジしてうまやのメニューに採用するなど普段からメニューに関する研究を欠かさない。


【 もどる 】    【 Top 】