【はじめに】
企業の海外展開には輸出や企業進出などの形態がありますが、中国に限って言えば、近年は工場進出よりも飲食業や流通業などサービス産業における企業進出が注目を集めています。
大分県内にもそうした分野で果敢に中国での事業に取り組んでいる企業あり、その一つが臼杵運送株式会社(臼杵市)です。今回は昨年上海に設立された臼杵運送の中国現地法人である福立(上海)国際貨運 代理有限公司の大塚総経理にインタビューしました。
「臼杵運送及び福立(上海)国際貨運代理について簡単にご紹介ください。」
「臼杵運送株式会社は臼杵市に拠点を置き、社員数950名、車両数1,100台、全国26の事業所ネットワークを生かした物流運営を行っており、サントリーグループ様、日産自動車グループ様をはじめ、多数の顧客の皆様とお取引いただいております。臼杵運送は数年前よりこれからの有望市場としての中国進出を計画し、情報収集や人材の選定、関係先との調査など進出に向けた準備を進めておりましたが、2013年8月に中国現地法人である福立(上海)国際貨運代理有限公司を中国上海にて開業しました。福立は国内幹線輸送、国際フォワーディング、倉庫管理に加え、顧客の物流コストの最適化を実現し収益改善につながるサービス提供を行っています。」
![]() |
大塚総経理 |
「日本と中国の運送業の違いについて簡単にご説明ください。」
「国土面積で日本の25倍ある中国では、国内主要都市幹線輸送距離で1,000㎞を超えることは一般的です。このような広大な土地で日系の運送会社が全国をカバーするのは厳しく、中国運送会社との合弁や、協業、請負を進めていく必要があります。輸送車両についても箱車より平ボディー車の比率がまだ高く、日本では考えられないような大幅な過積載などが存在することも事実です。また、2010年以降、中国ではネット通販が目覚ましく躍進していますが、軽車両等で配送する日本と違い、中国では市内の個口配送に配送員個々が配送用として自ら加工した電動自転車で行うことが一般的となっています。こうした違いは存在しますが、中国の物流は確実にクオリティーにこだわり始めており、日本との差が縮まる日も遠くはないと思います。」
「福立(上海)国際貨運代理さんが中国で目指すビジネスモデルはどのようなものでしょうか?」
「中国の実情を踏まえた上で、日本式の効率的輸送サービスを導入することにより、顧客の物流コストの低減を提案、実現することを目指しています。私自身日本中国双方で通販系物流、ネットモール等の物流改善などに長く携わっており、その点に関しては大きな強みがあります。また、大小に関わらず日系物販企業や流通業の方々にとってより利便性の高い総合物流センター事業の構築を目指す計画としており、将来的には顧客ニーズに合わせ中国各地、またアジア圏への進出も視野に入れた物流拡販も進めて参りたいと計画しています。」
![]() |
インタビューを受ける大塚総経理 |
「海外展開で企業が苦労するのはどのようなところでしょうか?」
「進出する国によって違いがあると思いますが、言語や人々の感性の違いはもとより、人事労務、税務会計、法務、許認可、物価上昇など様々なご苦労があります。中でも人事面の内部統制の安定化に大変苦労することは避けて通れません。各企業とも少数の日本人のもとでローカルスタッフ数十名、数百名の管理を行うのですが、日系企業、日本人の考え方を理解できる中国人人材は日本国内での実務経験者や中国の日系企業で一定年数以上の実務経験を持つ者に限られます。このような人材をキーマンとしてローカルスタッフに会社の方針を理解させ、社内規則、ルールを遵守させることが必要となります。また税務会計も日本の税制解釈とは異なる部分が多く頭を悩ませることが多い分野です。法改正なども度々発生するので、コンサルティング企業等との契約、またジェトロなどの支援機関から常に情報を取れる体制を作っておく必要があります。中国にいると日本人から見ると不合理なことも発生しますが、こういう国だと割り切って考えなければいけない面もあります。私の経験から言うと、苦労したことへの対応を可能な限りマニュアル化してしまうことが、少しでも苦労を和らげることになるのではないかと思います。」
![]() |
福立(上海)国際貨運代理有限公司ロゴマーク |
「大塚総経理は中国で長く仕事をされていますが、中国で仕事をする魅了とは何でしょうか?」
「私は2003年に中国駐在し、早や11年が経ちます。私自身まさかこんなに長く中国ビジネスに携わるとは思ってもいませんでした。私は中国駐在中に2度の転職をしておりますが、私のような者でも中国ビジネスに必要としていただいていることに非常に感謝しています。中国の物流は地方出身者の雇用頻度が高い分野ですが、彼らと長く接するにつれ、物流とはいえ、彼らの将来にメリットとなる何らかの能力や知恵を伝えてあげるのが私の使命の一つであると、ある時期より考えるようになりました。企業の期待に添う結果を出すことは勿論ですが、ともに働く中国人スタッフが輝く未来を持てるように共に努力できるのが私にとって中国の魅力のような気がします。確かに人事労務面でのご苦労は必ずあると思いますが、彼らと目線を合わせ理解する努力を継続し、歩み寄ることにより相互理解が生まれ、企業も活性化すると思います。」
「県内からサービス業で海外に進出しようとする企業にアドバイスがあればお願いします。」
「このところ、新聞、TV、ネット等で中国に対するネガティブな情報が飛び交っておりますが、確かにそうした面もあります。日系企業の中国投資も前年比で46%と大きく減少し、上海の日本人駐在者の数も昨年より約10,000人減少していると聞いています。中国投資減少の原因としては、中国内の日系企業マーケットで収益性を確保するのであれば、既に進出業種が出尽くした感があり、コスト競争力が小さい中小企業にとっては顧客開拓が困難な時期に来ていることがあると思われます。しかしながら中国人顧客をターゲットとした生産、販売、流通系企業において、中国は巨大マーケットであることは揺るぎない事実です。実際に生産量の増減を分析する指標の一つとしてエネルギー資源の生産量、使用量がありますが、電気、ガスの使用量は現在も増加傾向にあり、この国はまだまだ縮小するマーケットではないことを示しています。ブランドの認知、安定的な集客には時間と費用が伴うことが避けられませんが、ビジネスチャンスに関して中国はこれからも魅力的な市場であると確信します。中国への企業進出に関しては、あくまで私の経験上での意見となりますが、中国進出に際しての企業ビジョン、販売営業戦略、国内関係取引先等との事前調整とともに中国での実務経験者の意見、アドバイスを仰ぐことをお勧めいたします。勿論、我々臼杵運送にご相談いただいても結構です。可能な限りのサポートをさせていただきます。」
「本日は大変ありがとうございました。」
![]() |
会社入口で現地スタッフとともに |
【終わりに】
最近は中国経済の行方に関し、悲観的な論調もありますが、大塚総経理が指摘するように、基本的な消費はまだまだ伸びており、中国がこれからも魅力的な巨大マーケットであり続けることは当面変わらないと思われます。当然、中国に限らずどの国に進出するにせよ、人事面における現地スタッフの管理や税制、法制の習熟などは、皆さん苦労することと思います。しかし、そうした苦労を乗り切った企業だけが手にできる大きな果実もある訳で、これは基本的には企業が果敢に挑戦するかどうかにかかっているのかもしれません。サービス業の分野で進出を目指す企業の方々には是非今回のインタビューを参考にしてください。
(本稿は7月29日に行われたインタビューを八坂が編集したものです。インタビューの内容は個人の感想・意見であり、中国進出の成功を保証するものではありません。)
プロフィール
1965年生まれ。大阪府出身。大阪開明高校卒業後、1983年にプロ野球近鉄バファローズに投手として入団。89年に退団後、マンション、オフィスビル建築の山手工業株式会社に入社。その後、物流関係の人材派遣会社の株式会社トータスを経て、2000年にトヨタ自動車の物流を中心とした物流企業キムラユニティー株式会社に入社。2003年にコクヨの中国拠点立ち上げのために中国赴任。2007年コクヨ株式会社に移籍。2013年に臼杵運送株式会社に入社し、現地法人福立(上海)国際貨運代理有限公司の総経理に就任。趣味はゴルフとバイクに海釣り。元プロ野球選手ということで上海の日本人駐在員に幅広い人脈を持っている。座右の銘は「不言実行」。
【 もどる 】 【 Top 】 |