日中経済協会上海事務所 大分県経済交流室 駐在員レポート
インタビュー 「中国ビジネスの今後について」~中国在住の大分県関係者に聞く~

【はじめに】

中国でのビジネスも人件費の高騰や人材確保の難しさから、以前と比べ大変になっているとよく指摘されます。今回は中国ビジネスにおける人材という観点から、上海修曼人才有限公司・修曼(上海)商務諮詢有限公司の平松董事長兼総経理にお話しをうかがいました。 


「これまでの平松さんの中国でのキャリアについてお聞かせください。」

「初めて中国事業に関わったのは2005年8月で、それまでは日本国内の事業会社で、教育関連、就職支援関連、人材コンサルタント関連、介護関連などの様々な弊社日本法人の事業に携わっていました。2005年8月に上海修曼人才有限公司の総経理として赴任し、2009年まで上海に駐在していました。帰任後は介護事業のFC部門責任者などを歴任しましたが、2012年春、チャイナエイド2012という、上海で開催された介護関連の展示会に参加したことをきっかけに中国事業への復帰を本社に直訴、同年7月から天津、翌年4月には上海へ異動し、再度の駐在勤務についています。ご存知のように、中国では2008年1月の『労働契約法』施行以降、様々な関連法案が施行されており、きちんとした人事戦略や労務管理が企業発展の為には重要となり、弊社のビジネスも「人材紹介業」から「人に関わる総合サービス業」へと発展し、人材紹介のみならず、各種研修や労務コンサルティングなどを提供させていただくようになりました。日本勤務時に、ヒューマングループ内のヒューマンアカデミー、ヒューマンリソシア、ヒューマンライフケアと様々な法人の管理職を経験させていただいたおかげで、いまの勤務に本当に役立っています。」  


平松総経理

「これまで通算6年間、中国に関わる仕事をされてきたわけですが、中国で働く魅力とはどのようなものでしょうか。」

「月並みな話で恐縮ですが、「先が見えない楽しさ」です。中国人ホワイトカラーの方がよく「発展空間が大きい」という言葉を使いますが、発展空間がどれだけあるのかも見えないくらいの可能性を肌で感じる楽しさがあります。また、弊社は日系企業様向けに「人に関わるサービス」を提供していますので、中国人スタッフの7割が日本留学経験者で、残りも全員が日本語人材ですが、基本的に皆が「日本好き」です。彼らの成長を見ていると、これは管理職冥利に尽きます。よく、「人材が育たない」との話を耳にしますが、育てていないだけで、育てる努力をすれば、それに応えてくれます。蛇足ですが、前回駐在していた時の中国人スタッフたち、それぞれジョブホッピングしていますが、いまでも私を「総経理」と呼んでくれ、様々なシーンで個人的に私の仕事をサポートしてくれます。人と人の繋がりに、国籍は全く関係ないと実感しています。」 



平松総経理と上海修曼人才有限公司のスタッフ

「最近、中国、特に沿岸部においては労働者、特に工場労働者の人件費が高騰し、人がなかなか雇えなくなっていると聞きますが、その辺はどう捉えていますか。」

「確かにワーカー層の人材は、上海周辺では非常に確保が難しくなっています。ワーカー層の人材の多くは中西部の地方出身者ですが、近年は中西部の発展により、わざわざ沿海部まで「出稼ぎ」に来なくても、地元で職を得ることが出来るようになってきていますから。少なくとも、「人の手を機械の代替に利用する」労働集約型の工場などでは、人件費高騰に耐えられなくなってきていると思います。しかしながら、例えばここ上海という巨大都市では、サービス業の発展はまだまだ継続するでしょうし、サービス業こそは機械が人の代替をすることが困難な業態です。適正な賃金で、きちんとした教育を行っているサービス業には、多くの就職希望者が集まっています。」


インタビューを受ける平松総経理

「中国で日本企業が成功するには、優秀な日本語人材を獲得することが大切と思いますが、上海をはじめとする沿岸部、武漢等の内陸部など地域による日本語人材の状況はどうなっていますか。」

「国際交流基金の調査では2012年度の中国での日本語学習者は104万人で国別最多。 以下インドネシア87万、韓国84万。アセアン諸国ではタイ13万、ベトナム4.5万と続きます。絶対数では変わらず最多の学習者が中国にいます。また、日本語学習者の一つの目安として、日本の大学に在籍する留学生数を見てみると、中国人が8.6万人で全体の62.7%です。さらに、2011年7月に日本へ入国した留学生数と、2012年同月の数を比較すると、中国全体で減少していますが、重慶、広州、四川省などでは逆に増加しています。手前味噌ですが、日本への中国人留学生が減少している中、弊社日本法人が東京と大阪で経営している日本語学校では、昨年対比180%の中国人留学生を迎え入れています。これは、留学生の募集業務を沿岸部、東北地区のみならず、積極的に中西部内陸の都市へと広げていったことが功を奏しているのです。もうひとつ、日本語人材の確保という観点では、上海、北京などが圧倒的に優位です。これは中国の戸籍制度による影響です。元々の出生地に拘わらず、海外の大学を卒業し、帰国後に就職した場合、条件はありますがその都市の戸籍が与えられます。日本では想像できないくらい、この『戸籍』により、各種行政サービス待遇に格差があるのが中国です。そのため多くの留学生が、帰国後の就職活動を、上海や北京で行います。」


「中国ビジネスで成功するポイントについて、人材という観点からお話ししてください。」

「優秀な人材をどう確保し、育成するかが日系企業の課題です。残念ながら現在の在上海日系企業は、優秀な中国人ビジネスパーソンから見て、魅力のある存在ではなくなっています。中国国営企業や欧米系企業と比較し、給与が低いこと、福利厚生の水準も低いこと、さらには高級人材になればなるほど「育成プログラムやキャリアプラン」が用意されていないことなどが原因です。逆に言えば、原因ははっきりしていますので、十分に改善できると思いますし、現実に給与は決して高くはないけれども、キャリアプランが明確だとの理由で、優秀な人材を確保している企業様も多くあります。前述の通り、確かに日本語学習者は中国全体で見れば減少していますが、その絶対総数はまだまだ相当な数だと思います。それだけの中国人学習者が日本語を学んでいる事実、これは本当にすごいことだと思います。日本では中国政府の「反日」的な活動が多く報道されていますが、これだけの日本語学習者=日本が好き・日本に興味がある人材が存在する国が他にあるでしょうか。このような人材を、日系企業は雇用できるチャンスを持っているのです。ただし、反面、「日本語人材」へのこだわりも発想の転換が必要だと思います。職種や職位によって、本当に優先すべきが「日本語能力」なのかをよく考えるべきです。業種や企業規模にもよるでしょうが、「日本語は出来ないが優秀な中国人」を一切顧みないことは、私は間違いだと思っています。」


「今後の日本企業の中国ビジネスの可能性についてについて、平松さんはどのように見ていらっしゃいますか。」

「いま、弊社のお取引先企業で業績を伸ばしている企業様、陣容拡大をされている企業様を分析してみると、共通の特色があります。一つは、販売対象を日本人から中国人(日系企業から中国企業を含む全世界の企業)へシフトしている企業です。元々は自動車メーカーと一緒に進出したサプライヤー企業が、系列外の内資・外資企業様へ各種パーツを提供するようになり、業績拡大している事例などは数えられないくらい存在します。もう一つは、日本と同じような価格で販売できる商品を提供している企業です。例えば「某ファストファッション店」では、日本で販売している物と同一の商品が、日本での価格よりも高い価格で飛ぶように売れています。一般的によく言われている「環境」「介護」「外食」はもちろん、どのような業種にも業績を伸ばしている企業様はあります。個人的には、まだまだ法規制の問題など、外部条件による進出障壁はあるものの、どんな業種にも「可能性」はあると思います。」


「本日は貴重なお話し大変ありがとうございました。」


上海修曼人才有限公司の入口にて

【終わりに】

今回は人材という観点からいろいろと示唆に富む発言をいただきました。中国の人材をめぐる状況が目まぐるしく変化していることや良い人材を確保することがやはり成功へのカギの一つというのは間違いないようです。中国進出に関心のある皆さんも是非平松さんのアドバイスを参考にしてください。

(本稿は12月17日に行われたインタビューを八坂が編集したものです。インタビューの内容は個人の感想・意見であり、中国での事業の成功を保証するものではありません。)


プロフィール

平松展行(ひらまつのぶゆき)

1960年別府市観海寺の生まれ。別府鶴見丘高等学校卒、関西大学在学中に現在の勤め先であるヒューマングループの予備校部門でアルバイト講師を務めたことがきっかけで、そのまま入社。予備校、社会人の資格取得教育、介護事業などグループ各社の勤務を経て現職。中国では人事労務戦略のコンサルティング会社、人材紹介会社の総経理として6年目。大阪商工会議所、みずほ銀行、商工中金などの主催するセミナー等で「労働契約法」「人材採用と育成」についての講演活動も多数行っている。


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