日中経済協会上海事務所 大分県経済交流室 駐在員レポート
インタビュー 「中国ビジネスの今後について」~中国在住の大分県関係者に聞く~

【はじめに】

尖閣諸島をめぐる日中間の対立とその後の反日デモを境に中国ビジネスへの関心が低下する傾向にあります。最近ではチャイナプラスワンということで地方の中小企業においても東南アジア方面への関心が高っているように感じます。

果たして現在の中国おいてビジネスチャンスは本当になくなってしまったのか。中国に在住する大分県関係者はその点をどう見ているのでしょうか。

第1回目の今回は上海大分県人会の会長で、上海漫歩創媒広告有限公司総経理の安永博信さんにお話しをうかがいました。


安永総経理

「これまでの安永さんのキャリアについて簡単にご紹介願います。」


「私は大分県の国東高校を卒業したのち、1978年東京大学に入学。1982年に卒業後、大手国際運輸会社日本郵船に入社し、主として財務、経理畑を歩みました。その後1988年から1990年までアメリカのコロンビア大学でMBAを勉強し、1991年に米国投資銀行大手のリーマンブブラザーズ投資銀行に入社。同社ではM&Aや投資アドバイザリー、起債などの仕事に携わりました。そして、1995年にヤオハン中国に財務部長として入社し、最後は中国グループの副社長をつとめましたが、残念ながら1997年9月にヤオハンジャパンが倒産して、1998年に完全に独立。1999年にフリーペーパー事業を中心に中国で起業し、現在にいたります。4人でスタートしたビジネスもおかげ様で中国7カ所において200人を超えるスタッフを抱え、中国最大のフリーペーパー会社となりました。昨年より新たなビジネスパートナーが一緒になり会社を統合することになり業容も拡大。投資・投資アドバイザリー・メディア・広告・プロモーションなど様々な事業をグループ企業として行っています。」


インタビューに応じる安永総経理

「中国で現在の事業を始めよう思ったきっかけ、動機は何だったのでしょうか?」


「私の実家は味噌、醤油を製造する醸造業をしていましたので、将来独立して何かしたいという基本的な発想が常にありました。また、ヤオハンのオーナー和田一夫代表と一緒にいた時間が長かったので起業家としての影響を受けたのだと思います。ヤオハンの倒産により、中国の地で自ら何かを始める決心をしました。また、私の妻が中国系のアメリカ人なので、得意な言葉は、英語、中国語、日本語の順番です。子供も含めて家族は上海で住むことが気にいっており、そうした事情も背景にありました。」


「今後の中国ビジネスについて、大きく楽観論と悲観論があると思いますが、安永さんはどのようにとらえていますか?」


「楽観も悲観もしていません。私の中国在住18年の間、日中関係は概ね5年周期で様々な困難に直面しています。今後も世界第2位と3位の経済大国は歴史的、地政学的な背景もあり、様々なフリクション(摩擦)があると思います。しかし、民間人である私は、地道にたゆまず、中国で日中を軸としたビジネスをしていくことが大事だと思っておりますし、民間人同士の草の根の交流をしながら、私たちが関係する方々だけでもお互いをよく理解していくことが大切だと思っております。ライフワークとして日中のビジネス、文化の交流のプロモーションに努力し続けたいと思っております。」


反日デモの最中、店舗名を隠したラーメン店(上海)

「昨年から反日デモ、大気汚染、鳥インフルなどで中国に関するマイナス情報がマスコミに溢れかえっているように思えますが、長年中国にいらしてその辺はどう感じていますか?」


「マスコミにはマイナス情報だけでなく、プラス情報も流していただきたいと思います。中国の大量消費のおかげで様々なものを輸出して収益の下支えができている日本企業がたくさんあり、また、中国人観光客により日本の旅行業界が多大な恩恵を受けていることなど様々なことがあると思うのです。幸か不幸か、日本はこの超大国の隣に位置しているので、良いことも悪いことも影響を受けなければならないという事実を認識しておくべきと思います。その上でどう上手にこの国とお付き合いするかということを学ばなければいけません。私は等身大で中国の人たちと毎日接しています。中国の人々は日本の人々と考え方が相当異なりますし、国も社会も成り立ちが違います。そのことを理解したうえで、お付き合いすれば皆普通の人たちだと思います。大多数の人は平和を愛していますし、皆さん家庭の人々を大切にしています。より豊な生活をし、旅行に行き、良い商品を買いたいと思っているのです。私は日本の方も中国の方も最終的にはプラクティカル(現実的)に行動していただきたいと願っています。政治によってのみ動かされることだけでは、国民の幸せは実現できないと思います。」


JR九州フードサービスが運営する大人気の居酒屋「上海うまや」

「地方の中小企業でも今後、中国で勝負できそうな分野があれば教えて下さい。」


「たくさんの分野で勝負できると思います。ただし、チャンスとリスクは裏腹です。月並みですが命をかけてやらなければ、また、骨を埋める覚悟で中国ビジネスをやらなければ勝負できません。それだけの覚悟があって投資するかどうかだと思います。誰かに任せているだけではビジネスはできません。事業には魂が必要であり、お金も、人も、アイデアも自らが投入しないとうまくいきません。お金だけだして誰かに任せようとするのであれば、日本で投資したほうがいいと思います。中国で良いパートナーに出会ったと言って安易にその方を頼って投資し、失敗した人をこれまで山のように見てきました。日本人が経営して成功しているレストラン、パン屋さん、ケーキ屋さん、テニススクール、文化教室、美容院、SPA/ネイルサロン、スーパーマーケット、語学学校、不動産仲介、会計事務所など大変たくさんの分野があります。成功と失敗の率でいえば、失敗したほうがはるかに高いと思いますが、成功した方も何人もいます。私も何人かの若手経営者のアドバイザリーをしていますが、そうした熱意あふれる方々を今後も支援したいと思っています。」


「本日は大変ありがとうございました。」


上海事務所ホームページ

【終わりに】

大分県にも平和マネキン、ダイナン、ベルクール、寿司めいじん、江藤酸素、豊洋精工、ネオマルスコーポレーション、NBSロジソル、臼杵運送など果敢に中国での事業に挑戦している企業があります。確かに道は険しいかもしれませんが、上海には大分県人会もあり熱意あふれる地元企業を支援する態勢もあります。

中国に限らず、皆さんも海外展開に関してもう一度考えてみてはいかがでしょうか。


安永博信(やすながひろのぶ)

1959年生まれ。大分県武蔵町(現国東市)出身。東京大学卒業後、日本郵船、リーマンブラザーズ投資銀行、ヤオハン中国などを経て、上海でフリーペーパー事業を起業。現在、上海漫歩創媒広告有限公司総経理。企業経営の傍ら日中文化交流事業など幅広い分野で活躍している。詳細はwww.whenever-online.comで見ることができる。


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