日中経済協会上海事務所 大分県経済交流室 駐在員レポート
大気汚染をめぐる中国・上海の状況について

【はじめに】

昨年の秋頃から中国の大気汚染のニュースがにわかにクローズアップされ、日本でも大きな関心を呼んでいます。中国の大気汚染に関する日本の報道は北京市やその周辺に集中しており、上海の大気汚染の状況は日本の方がイメージする状況とは少しギャップがあるようにも感じます。

今回のレポートでは、中国のメディアや政府機関が伝える大気汚染の状況や上海で生活している者としての実感などについて報告します。


【中国大都市の大気汚染の状況】

最近の中国の報道では、「霧霾天気」(ウーマイティエンチィ)という言葉が頻繁に登場します。「霧」は皆さんお分かりですが、「霾」というのは粒子状の物質が混じった気象のことで、「霧霾天気」は日本語でいう「スモッグ」に近い言葉のようです。


中国の大気汚染の状況を伝える上海の地元紙

 国家機関である中国環境観測総站(「站」はステーションの意味)はネットで中国の各観測地点の大気汚染の状況を公開しており、全国の観測点における大気汚染の状況を知ることができます。


中国環境観測総站のサイト

中国国内の報道では、国家環境保護部が2月5日に発表したところによると2013年1月の中国の74都市(北京・天津・河北省、長江デルタ地域、珠江デルタ地域の主要都市及び各省都並びに計画単列市)のうち大気汚染の激しい都市のランキングは、①邢台(河北省)②石家荘(河北省)③保定(河北省)④邯鄲(河北省)⑤廊坊(河北省)⑥衡水(河北省)⑦済南(山東省)⑧唐山(河北省)⑨北京 ⑩鄭州(河南省)であり、逆に汚染の軽い都市は、①海口(海南省)②福州(福建省)③舟山(淅江省)④アモイ(福建省)⑤恵州(広東省)⑥肇慶(広東省)⑦深圳(広東省)⑧昆明(雲南省)⑨ラサ(チベット自治区)⑩珠海(広東省)とのことです。これを見るとやはり大気汚染の激しい地域は河北省、北京に集中しているのが特徴で、南方は比較的汚染が軽いという傾向にあることが分かります。

中国北部の天気はここ10年で最も大気の循環が悪くなっており、汚染が拡散しにくい状況になっていると中国の報道は伝えています。特に北京周辺の大気汚染がひどいのは、厳冬で中国北部では暖房用に使う石炭消費が多いことや風向き、地形などいろんな要素が複合的に影響していることが考えられます。

今年1月の北京の「スモッグ日」は、全国平均が4.4日に対し、なんと26日も発生し、スモッグがなかったのはわずかに5日のみという記事も伝えられています。北京の大気汚染の原因は、22%が自動車の排気ガス、16.7%が石炭の燃焼、16.3%が工場のばい煙、16%が都市から発生する塵挨、4.5%が農村で燃焼される稲麦わら類、残りは周辺地域からの流入とのことです。


【上海市の大気汚染の状況】

上海の地元新聞「東方早報」の報道によると、今年1月の上海の大気汚染日は18日に及び、うち重度汚染が6日、中度汚染が3日、軽度汚染が9日となり、ここ5年で最悪の状況となっています。


上海市内の大気汚染
(今年2月事務所から筆者撮影)

上海に住む私自身の感覚では、上海の大気の状態は毎日悪いというわけではなく、日によっては比較的よい状態になります。政府の指導もあったのかもしれませんが、2010年の上海万博の期間中は青空が続いたという話を聞いたことがありますし、昨年の7月には10日間ほど素晴らしい晴天が続き、我が家は一家で浦東の高層ビルに夜景を見にいったということがありました。


昨年7月に浦東の高層ビルから撮影した上海夜景
(奥に虹橋空港の灯りが見える)

しかし、それ以降、すっきり晴れわたる日が続いたというのは、私の記憶にはほとんどありません。テレビ報道などで皆さんもご存知かもしれませんが、うちの子どもが通う上海日本人学校は、大気汚染がひどい時には屋外での体育や休み時間の校庭での活動を禁止する措置を取っており、1週間に2回ほどの割合でそうした日があるとのことです。


【大気汚染の数値】

上海では上海市環境保護局が上海市内の各観測点の大気汚染状況をネットで公開しています。このサイトは上海市各観測点のPM2.5の数値も掲載していますが、トップページには大気の質を示すとされるAQI(Air Quality Index)が表示されています。このAQIはPM2.5のほか評価指標として、SO2、NO2、PM10、O3、COなどを使用した総合評価の数値のようで、PM2.5の数値よりは低く表示されています。


上海市環境保護局のサイト

私が知る限りでは、多くの上海の日本人駐在員が見ているサイトの大気汚染の数値は上海市が発表したものと大きな差があります。我が家が参考にしているサイトは以下のものです。


我が家が参考にしている大気汚染のサイト

 

後者のサイトが表示しているのはPM2.5のみの数値であり、しかも中国政府の観測点の数値と中国のアメリカ大使館や各総領事館で測定している数値を使っているようです。中国の政府機関の発表とその他の機関の発表した数値に大きな違いがあるというのは分かりにくいことですが、先日、上海総領事館が開催した大気汚染に関する説明会では、講師がアメリカの表示と中国の表示に違いがあるのは、データを比較する環境基準が異なり、中国の基準がアメリカ・日本のものよりかなり緩いのが原因と解説していました。私の周りの在住日本人はなるべく厳しい数値を発表するサイトを見て行動しているケースが多いように見受けられます。


【上海市政府及び市民の大気汚染対策】

こうした大気汚染に対し、上海市政府は汚染の激しい日には児童、老人や心臓病、肺病患者は室内に留まり、健康な人も屋外の運動を減らすよう呼びかけるとともに、上海宝鋼、上海石化など、汚染物質の排出の多い企業に対し緊急排出削減措置を取るよう要請を行っています。また、今後、大気汚染がひどくなった場合、排出基準が一定に達してない車や公用車を対象に車両通行制限を行うことも検討されていると報道は伝えています。

一般市民の自衛策はというとやはりマスクの着用でしょうか。冬場は一般にマスクの着用が多くなるものですが、上海でも屋外ではマスクを着用している人が多くなったように感じます。また、空気清浄機の購入も自衛策として挙げられます。「第一経済日報」では、パナソニックでは12月以来空気清浄機の売り上げが顕著に伸び、1月は前年同期の2.2倍に達したと伝えています、また、同記事では、シャープは前年同期の3倍の空気清浄機の売り上げとなり、同社の白物家電の売り上げの30%を占めるまでになったとのことです。


上海市内の電器店の空気清浄機売り場

【上海の日本人駐在員の行動と心理】

日本の報道番組で、環境省がPM2.5の基準値の倍である70を超えたら屋外での活動自粛を勧告する指針を正式決定したとのニュースが流れていました。コメンテーターが、「子どもやお年寄りに対し、そうした倍の甘い基準でよいのか。」というような言葉を述べていましたが、上海でも70以下などという日はそう多くはなく、日本であれば屋外での活動はほぼできなくなるのでしょう。ただ、こうした状況をあまり深刻に考えるとこちらでは生活できなくなります。現在のところ、私の周辺では大気汚染を理由に帰国したとか、ほとんど外出しないなど極端な行動をとっている人はいません。人によっては外出時にマスクを着用していますし、自宅に空気清浄機を取りつけた家庭も多いようですが、休日にゴルフやテニスなどを屋外で行っている駐在員は依然として多くいるようです。

しかし、PM2.5は髪の毛の40分の1程度の大きさで、人体に取り入れられると何らかの影響があると考えられているそうです。長期的にどのような影響が出るかはデータがないため定かではありません。私たちのような環境にいる人間が実験材料になっているような状況であり、程度の差はあれ皆さん漠然とした不安は抱いているようです。


【終わりに】

日本も高度成長の時代に各地で深刻な公害が発生し、大きな社会問題となりました。現在の日本の環境技術はそうした公害を克服した経験の上に成り立っているともいえます。こうした経験、技術を用いた双方にメリットのある日中の環境協力事業の拡大が大変重要です。今後、円借款、NGOの活動や日中経済協会も主催者の一人となっている日中省エネルギー環境総合フォーラムなど様々プラットフォームの活用が期待されます。しかし、現在日中間の交流は尖閣諸島をめぐる問題で大きな影響を受けており、環境協力の方面で大きな進展が見られないのは残念というほかありません。一日も早くこうした状況が改善され、ウインウインの日中関係が拡大・発展していくことを願ってやみません。


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