【はじめに】
連続インタビューの第3回目は、上海の飲食業界の事情に詳しい上海原紫貿易有限公司市野瀬総経理(上海大分県人会幹事長)の登場です。上海には1000店舗以上の日本料理店があると言われていますが、飲食業におけるチャンスとリスクについてお話しを伺いました。
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市野瀬総経理 |
「これまで17年にわたり中国で仕事をされてきたと聞いていますが、市野瀬さんの中国での経歴について簡単にお聞かせください。」
「初めて中国に来たのは1996年3月で、その時は広東省深圳で店長として日本料理店の立ち上げを行いました。その後、2004年まで深圳で7店舗の日本料理店に関わってきましたが、2004年7月に上海に活動拠点を移し、浦東で日本料理店を立ち上げました。その後、日本料理店や焼き肉店など4店舗の経営に関わり、2009年には上海の食品卸の大手である峰二食品に入社。蘇州久光百貨での飲食店管理や2010年の上海万博では万博出店店舗への食材配送管理などを担当し、最終的には上海エリアで約100店舗の営業を担当するまでに至りました。そして2013年上海原紫貿易の総経理に就任し、現在は飲食業とは少し違いますが、主に有田焼や九谷焼などの輸入・販売を手掛けています。」
「長い間、中国で働きつづけてきたのは理由があると思います。中国で仕事をする魅力は一体何なのでしょうか。」
「仕事の責任範囲が広く、自分の考えや力で会社や組織を動かせると実感できるというのがあります。その意味では本当にやりがいがあると感じます。それに、何といっても上海はビジネスチャンスが無限にあるというのがここで仕事をする魅力でしょう。」
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上海原紫貿易有限公司の商品展示室 |
「上海で成功している日系の飲食店があれば例を教えてください。また、その成功の理由を解説してください。」
「思いつくままに挙げると、回転寿司の『がってん寿司』、蕎麦屋や焼き肉店を展開する『萬蔵』、創作日本料理の『安達』、本格手打ちそばの『紋兵衛』などがあります。そうしたお店は特徴の一つとして従業員教育に隙がないことが挙げられます。私は店に来ていただくお客さんというのは子供と同じように店が育てていくのだと考えています。従業員が接客する際、無愛想というのは論外ですが、逆に丁寧過ぎてもダメで、その点、繁盛店は客との距離感をよく理解していると感じます。また、料理がいつ行っても同じレベルで提供されるように商品管理がしっかりしていることや季節に即したメニュー、時代に合わせたメニューを提供するなど、常に研究して客のニーズに応えているなどの努力が成功する秘訣と思います。」
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がってん寿司 |
萬蔵 |
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安達 |
紋兵衛 |
「大分県の郷土料理を看板に中国で勝負できるでしょうか。」
「残念ながら大分料理ということを上海で看板にしても成功は難しいと思います。例えば、関サバ、関アジは一世を風靡しましたが、大分の料理自体が日本においてもそれほど受け入れられていると思えません。中国で勝負するためには料理にかなりの特徴を持っていることが必要で、九州だったら、そういう特徴を持つのは『博多豚骨ラーメン』だけでしょう。」
「今後、中国において飲食業で成功するとしたら、どのようなことが大切になってきますか。また、上海や北京のような大都市以外でも成功することは可能でしょうか。」
「土地を知ること、人を知ること、いわゆるマーケティングをしっかりやることです。 私がオーナーだったら、優秀な社員を1人先に上海に送り込みますね。どこかの店に入れて、1年くらい時間をかけて、客のニーズ、店舗物件、材料調達、雇用などの情報を得てから店をオープンさせます。繁盛店に一番大事なことは、店舗のロケーションです。しかし、そういう店舗はすぐには見つかりません。ちゃんとした情報を得ずに店をオープンさせれば、たとえ味がよく、従業員の教育がしっかりしていても成功させるのに苦労します。上海、北京などの大都市以外で飲食店を成功させるのは、どちらかと言えば簡単かもしれません。しかし、その土地のルールを知らないといけませんし、有力なパートナーを見つけないと問題が起きる可能性もあります。ただ、それは上海、北京でも同じことですけど。」
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インタビューを受ける市野瀬総経理 |
「これから海外で事業を行いたいという大分県内の方々にアドバイスがあればお願いします。」
「何度も言いますが、物を売るのだったら『ロケーション』が一番重要です。例えば昨年12月に上海の古北地区に開店した某日系百貨店が現在苦戦していると言われていますが、それもロケーションの問題に行きつきます。上海の地理を知っている人ならば誰でもわかると思いますが、ああいう場所にデパートは日本でも存在しません。それと対照的にJR九州が展開する飲食店『うまや』は、場所選びに妥協せず1年以上かけて場所を探し、成功しています。大分の企業にはどんどん出てきてほしいと思っています。ここは競争も激しく、成功する確率は高いとは言えませんが、チャンスは大いにあります。よろしければ私がアドバイスしますよ。」
「本日は大変ありがとうございました。」
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上海原紫貿易有限公司入口にて |
【終わりに】
実際に上海に来ると驚くほど多くの日本料理店が存在していますが、それなりに競争も激しく、店の入れ替わりも激しいようです。リスクはあるものの日本にはないような大きなチャンスもあるというのが中国での飲食業かもしれません。飲食業で海外事業に挑戦しようという方は是非今回のインタビューを参考にしてください。また、上海では大分県人会の会員による相談も受けることができますので、ご希望の方は当事務所にお気軽にお問い合わせください。
(本稿は10月16日に行われたインタビューを八坂が編集したものです。インタビューの内容は個人の感想・意見であり、中国での事業の成功を保証するものではありません。)
市野瀬裕生(いちのせひろいく)
1956年生まれ。大分県弥生町(現佐伯市)出身。佐伯鶴城高校卒業後、龍谷大学法学部進学。当時アルバイトをしていた飲食チェーンに就職、スーパーバイザーとして活躍。96年に中国に渡り、日本料理店や食品卸会社など一貫して飲食業界に従事。2013年からは上海原紫貿易有限公司総経理を務め、九谷焼、有田焼の輸出などに携わっている。企業経営の傍ら、上海の劇団「アパッシュ」に所属。『熱海殺人事件』、『上海ムーン』など弥山凌の名で演劇活動を続けるなど多彩な才能を発揮している。
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