【はじめに】
前回に引き続き、中国在住の大分県関係者へのインタビューをお送りします。第2回目の今回は上海住友倉儲有限公司副総経理で上海大分県人会幹事長の鳥羽秀徳さんお話をうかがいました。
「これまで約20年にわたり上海で仕事をされてきたと聞いていますが、この20年間の中国・上海の変化についてお聞かせください。」
「この20年間、市内に高架道路ができたり、東方明珠タワーができたり、凄いスピードで上海の街が変化していく姿を見てきました。今PM2.5が話題になっていますが、私が来たころは、上海の開発が本格化した直後で、毎日多くの家屋が壊され、ほこりで窓も開けられない状態でしたので、今は随分空気がよくなったと感じているくらいです。赴任当時、最低賃金が210元で、現在の1620元と比べると約8分の1でした。2008年の労働法制定により労使関係が大きく様変わりして解雇が大変難しくなり、労働者の管理が大変になったというのも仕事上の大きな変化です。」
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鳥羽副総経理 |
「中国で仕事をする際、外国人・日本人としての心構えが大切であると常々お話しされていますが、その点についてもお聞かせください。」
「最近、日本から中国に赴任する若い方々を見ていると、中国人と接しようとせず、日本人だけで固まろうとしており、その点を大変危惧しています。中国に来れば日本での肩書、名刺は何の意味も持ちません。トラブルが発生して困った時など、本当に頼りになるのは、親身にお世話をしてくれる地元の中国人です。中国の友人を作り人脈を築くことが、こちらで仕事をする上で非常に大事です。私も約20年間やって来られたのも、数多くの中国の友人のお陰と心から感謝しております。敷居が高いような政府の方にしても、心を込めて相談すると、いろいろ親身になって教えてくれますし、私も実際に助けていただきました。我々は常に中国で働かせていただいているとの気持を持つことが大切と思います。」
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鳥羽副総経理とのインタビュー |
「鳥羽さんは上海大分県人会を設立した発起人の一人ですが、これまでの県人会のあゆみや果たしてこられた役割などについてひとことお願いします。」
「1999年頃でしたが、全日空の方から安永博信さん(現会長)を紹介され、その出会いをきっかけに、2人で大分県人会を立ち上げました。当時は上海に在留登録をしている日本人が3000人程度で、大分県人会も確か5人からスタートしたと記憶しております。徐々に口コミでメンバーが増え、県の上海事務所が事務局を担当するようになったことを機に、APUのOBの方も多数参加するようになり、他県が羨むほど大変結束した会に発展しました。今後は、会員の方々が仕事の面で繋がって行くことを期待しております。」
「この20年の間に日中間は経済的関係が大きく深まったと同時に、時には様々な政治的摩擦も発生しました。現在の日中関係をどのようにとらえていますか?」
「現在はお互いに引くに引けない難しい状況と思いますので、急激な回復はないと思います。しかし、双方とも更なる悪化を回避する努力を続けると思われますので、状況は徐々に回復するのではないでしょうか。」
「今後の日本企業の中国ビジネスの可能性についてについて、どのように見ていらっしゃいますか?」
「農業分野、有機肥料、食品、環境改善機器などのビジネスが益々伸びると思います。特に中国では農業は作物を作っている人の顔が見えず、農薬を過剰に使用しているなどの問題を抱えています。また、食品も白酒、ワイン、ウイスキーから食肉、飲料水に至るまで、口にすると人体を害するようなニセモノが横行しています。安全と安心を中国の方々に提供できれば、大きなビジネスチャンスがあると思います。中国は環境問題が深刻になっており、日本のクリーンなごみ処理などは中国の人々に大変喜ばれると思います。ただ、日本企業だけで事業を行うのは難しいので、よい合弁先を見つけられるかがカギです。安全と健康を売りに中国の有力な方と組めば大きな可能性があると思います。」
「今、上海で流行っているビジネスには例えばどのようなものがありますか。」
「最近、上海の日本料理屋を見ると女性客が非常に多くなっています。客の7割が女性というところもあります。これは最近の健康志向と無関係ではありません。特に上海で繁盛する日本料理店は常に日本人のお客さんがいて、従業員が日本語であいさつすることが特徴です。お客さんは本物の日本料理を求めているということです。また、家庭菜園なども人気を呼んでいます。これも生産者の顔が見える安全な農産品、食品というということにつながっていると思います。」
「大分の中小企業でも今後、中国で勝負できそうな業種・分野があれば教えて下さい。」
「農業、食品加工、環境分野などで十分勝負できると思います。キーワードは『本物と安全』です。日本から中国への輸出は現状では制限も多く大変でしょうから、健康によい手作り豆腐やぬか漬けなどを中国で生産し、富裕層に宅配するなどの方法ができれば売れるのではないかと思います。皆さんは、中国人がぬか漬けを食べるのかと疑問に思われるかもしれませんが、これまでの常識に縛られないことです。例えば、90年代の中頃、友人の中国人が日本から回転寿司の機械を導入して回転寿司屋を始めました。当時、中国人は生ものを食べないというのが常識であり、誰もが回転寿司ビジネスは無謀と思いました。しかし、結果は大繁盛。今は中国全土にチェーン店が何件もできるようになりました。また、家庭菜園と合わせた農場を作って大分の先進的な農業技術で作物を作ることも考えられます。その作物を大分の物流会社が市内に運び、上海市内の一角で大分の会社が大分ブランドとして富裕層向けに販売するというのもよいでしょう。そこに行けばニセモノは絶対になく、全部安全な商品だということを売り物にすることです。要はこうしたことを誰が一番先に腰を入れて実施して成功するかということと思います。」
「最後に、私ごとで恐縮ですが、この度の人事異動により約20年の中国勤務に終止符を打ち帰国することとなりました。大分県人会をはじめ、皆様には大変お世話になりました。帰国しましても、大分は私の故郷ででもありますし、大分から中国市場に挑戦したいという方がいましたら、少しでもお力になれればと思います。」
「本日は大変ありがとうございました。」
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鳥羽副総経理と上海住友倉儲有限公司玄関にて |
【終わりに】
さすがに20年にわたり中国でのビジネスを見てきた方だけあって、多角的な視点から的確な提言をいただきました。特に上海においては常識にとらわれずにビジネスを考えていくことが重要との意見が私には新鮮に感じられました。皆さんの海外展開に関するご参考となれば幸いです。
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上海住友倉儲有限公司 |
(本稿は7月4日に行われたインタビューを八坂が編集したものです。インタビューの内容は個人の感想・意見であり、中国での事業の成功を保証するものではありません。)
鳥羽秀徳(とばひでのり)
1954年生まれ。大分県安岐町(現国東市)出身。杵築高校卒業後、住友倉庫に入社。大阪港支店を皮切りに横浜支店などを経て1994年に上海に赴任。住友倉庫の中国現地法人である住友倉儲の副総経理を務める。趣味のゴルフはプロ級の腕前。上海在任中、自らが主催するゴルフ大会「JS杯」を200回開催した。
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