日中経済協会上海事務所 大分県経済交流室 駐在員レポート
日本の中小企業誘致をターゲットとした上海周辺の開発区

今年度に入って、当事務所に寄せられる中国への企業進出に関する県内企業からの問い合わせ、相談が少しずつ増えてきました。少子高齢化に直面する日本国内では今後マーケットの縮小は避けられず、将来的な海外での事業展開を考えている県内企業も多いことと思います。今回は主に日本の中小企業誘致を目的としている上海周辺の開発区を2か所ご紹介します。


【上海市金山工業園区 日本中小企業産業園】

金山工業園区は2003年に上海市政府により認可された上海市級工業区の一つであり、計画面積は58k㎡です。現在その一部が完成し、日系企業では「金井特線」、「福助」、「山崎製パン」などが立地しています。

上海市金山工業区

工業区内には現在、集中的に日本の中小企業を誘致する産業区「日本中小企業産業園」を建設中です。日本中小企業産業園では従来の労働集約的な産業ではなく、ハイテク、環境、医療などの産業誘致を目指しており、具体的には以下のとおりです。

1. 機械製造産業:中小精密機械、印刷機械、加工機械、包装機械、自動車部品など

2. 電子情報産業:計器・メーター(測定、分析、制御)、自動化装置と部品(センサー、制御機、サーバー部品)、電子部品、ソフトウエア開発、メディア技術研究開発、メディア製品(ゲーム、アニメ)制作など

3. 生物医薬産業:医療製品、医療設備(画像、測定、分析)、生物製薬、生物化学製剤など

4. 環境型印刷産業:包装印刷、特殊印刷、デジタル印刷、ハイテク印刷など

5. 食品加工産業:でんぷん糖加工、保健品、機能性飲料など


上海市金山工業区の全体計画模型 現在、日本中小企業産業園区ではモデル工場を建設中
(モデル工場は購入、レンタルができる。)
次々と建設されるモデル工場 モデル工場の内部

中国には各地に多くの開発区や工業区があり、お互いに企業誘致を競っています。金山工業区の特徴は何といっても上海市中心部からの近接性にあります。

金山工業区は上海市内から約50kmの距離にあり、車で約1時間で行くことができます。

また、現在、上海南駅と金山区中心部を結ぶライトレール22号線が建設中で、今年中に開通の予定です。ライトレールは金山工業区を貫き、エリア内に2つの駅が設けられています。ライトレールを使えば30分以内で上海南駅に到着することができます。


工業区内に既に完成しているライトレール22号線の駅

現在、日本中小企業産業園区は進出企業への様々な優遇策を検討中です。契約までには至らずとも、すでに多くの申し込みを得ているとのことです。上海市政府も初の日本中小企業を対象とした産業園区の開発に真剣に取り組んでおり、日本語で対応できる中国人スタッフも常駐しています。産業園区は「進出へのハードルが高くない今のうちに是非進出を検討していただきたい。」と話しています。


【蘇州市呉中区木瀆鎮(もくどくちん)日本企業サービスセンター】

蘇州市は上海の東に位置する長江デルタ地域の中核都市のひとつです。総面積は大分県よりやや大きな約8,500k㎡(大分県は約6,340k㎡)で、大分県の約10倍の1,200万人が居住しています。蘇州市には日系企業が約2,000社進出しており、在住日本人は推計で約10,000人と言われています。

木瀆鎮は蘇州市の南西部に位置する約62k㎡の地域で、人口は約42万人です。蘇州市の西側は蘇州高新区(蘇州国家ハイテク産業開発区)があり、日本企業はじめとする世界各国のハイテク企業が立地し、日本人居住区もその中にあります。木瀆鎮はその日本人居住区から車で10分ほどの距離にあり、今年開通した地下鉄1号線の駅が地域内に2か所置かれ、周辺の商業施設、オフィスビル、住宅などの開発が進んでいます。


木瀆鎮にある地下鉄1号線の駅 関西系のスーパー「イズミヤ」も進出
「ユニクロ」や「洋服の青山」もある

木瀆鎮はこれからの街づくりに向け、日本企業の優れた企業文化・サービスモデルを積極的に導入するため、2009年に政府直属のNPOである日本企業専属サポート機関「日本企業サービスセンター」を設立し、日本人スタッフ3名、中国人4名の体制で日本企業の誘致や誘致企業のサポートを行っています。サービスセンターによると、鎮レベルの政府で日本企業を対象にこうした手厚いサポートを行っているのは中国でも例がないとのことです。


サービスセンター内部 サービスセンターが入居するビルの
レンタルオフィス

日本企業では既にエステの「スリムビューティーハウス」をはじめコンサルティング、貿易、ソフトウエア、産後ケア製品などの企業が進出し、オフィスを構えています。サービスセンターでは、様々なサービス業、例えば飲食、美容エステ、ペット産業、介護・老人ホーム、医療・健康産業、ウエディング産業、葬儀・霊園、ソフトウエア、コンサルティング、などの誘致を推進しています。

サービスセンターは、「上海等の中国の大都市はマーケットは大きいものの、各国の大企業がひしめき、競争も激烈である。オフィス家賃や駐在員住居も高額で、生き残っていくには相当な体力と覚悟が必要。木瀆鎮では大都市に比べはるかに小さな投資と、低いリスクで運営が開始できるほか、サービスセンターを通じた政府のサポートにより各種手続きが非常に早くできる。また、各種コンサルを無料で受けたり、提携企業を紹介してもらうことも可能。是非とも木瀆を中国進出の拠点として第一歩を踏み出してほしい。」と述べています。

 木瀆鎮日本企業サービスセンター 公式ホームページ:http://www.mjaec.org.cn/index.php


【上海近郊を足がかりとした中国への事業展開】

中国への企業進出は近年、沿岸部から内陸部へとシフトしています。内陸部の場合沿岸部と比較し、人件費の安さや労働力の確保の容易さは確かに魅力ですが、駐在員の日常生活の環境は食事をはじめ、やはり厳しいものがあります。上海や蘇州は家族での赴任も容易であり、駐在員が安心して暮らせる環境があるというのは、進出企業にとっても大きなメリットと思われます。

中国への進出を検討されている県内企業におかれては、今回ご紹介した場所を足がかりに展開を図る方法もありますので参考にしていただければ幸いです。

金山日本中小企業産業園、木瀆鎮日本企業サービスセンターに関して、さらに詳しい情報が必要な場合は当事務所を通じて入手することが可能です。また、視察、見学を希望される場合も積極的にアテンドしますので、お気軽にご相談ください。


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