日中経済協会上海事務所 大分県経済交流室 駐在員レポート
発展する中国内陸都市~重慶~

ジェトロ上海事務所
大分経済交流部 山崎吉明

重慶という地名から想像されるのは、「中国奥地」、「重工業地域」、「重慶爆撃」、「大気汚染」などで、日本人にとってはややマイナスのイメージが先行する中国の都市ではないでしょうか。2004年にサッカー・アジアカップで日本人観戦客に罵声があびせられ、ペットボトルなどが投げつけられたことも記憶に新しいと思います。

しかし、人口3,200万人を抱え、年間経済成長率17%の勢いで発展するこの重慶は、今中国で最もホットな投資先として世界中から注目されています。私もこれまで出張で2回重慶に行ったことがありますが、おびただしい数の高層ビルが天を突くように伸び、さながらニューヨークのマンハッタンを彷彿させる光景に驚きました。今回は、中国内陸の中心都市「重慶市」についてその発展ぶりをレポートします。


【重慶市のすがた】

重慶市は、もともと四川省に属していましたが、1997年3月に北京市、上海市、天津市と並ぶ4番目の直轄市に昇格しました。現在、人口約3,200万人のうち都市人口は1,000万人、農村人口は2,200万人となっています。重慶市政府は、都市化の推進と調和のとれた発展により、2020年までに都市人口を2,200万人、農村人口を1,000万人にすることを目標にしています。また、重慶市の面積は約8.2万平方キロメートルと中国直轄市の中で最大を誇り、北海道よりも広い面積となっています。

他の都市と趣の異なるのは、重慶には山が多く、その関係で坂道が多いことです。上海、北京、成都など大都市は平地にありますが、重慶は古くから「山城」(山の都市)と呼ばれていて、山地を切り開いてオフィスビルやマンションを建てているのが特徴です。


超高層ビルの建設が進む 市内中心部の広場

【中央政府の投資により発展】  

中国政府は沿岸部と内陸部、都市部と農村部の地域格差是正のため、2000年から西部大開発計画を始めとする大規模プロジェクトを実施しています。重慶市には三峡ダム建設による住民移転や、貧困層の貧困脱却、環境汚染改善の投資などで中央政府から莫大な資金が流れているのです。これにより、重慶市は2000年以降、中国全体の平均成長率を上回るスピードで発展し、リーマンショックの影響で中国沿岸部の成長が落ち込んだ2008年、2009年のGDP成長率はそれぞれ、14.3%、14.9%アップとその影響を全く受けず、2010年は17%を超える成長を達成し、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで発展している状況です。

一人当たりのGDPは約4,000ドルで中国全体の平均を若干下回っていますが、現在60%を超す農村人口が、徐々に都市人口に移行することで更なる経済発展が期待できます。こうした状況から、北京や上海、広州などの沿海都市からの不動産投資も活発になっています。


重慶市と中国全体の経済成長率の推移

(単位:%)

 

01

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09

10

重慶市の成長率

9.0

10.3

11.5

12.2

11.5

12.2

15.6

14.3

14.9

17.1

中国全体の成長率

8.3

9.1

10.0

10.1

10.4

11.6

13.0

9.6

9.1

10.3

(出所:中国統計年鑑等)


【産業の発展】  

もともと重慶は中華人民共和国成立後から内陸部工業化の重点都市として発達してきました。機械、化学、医薬品、電子機器、電力設備、建築資材など各工業が組み合わさった一大基地となり、一時は「工業は重慶に学べ」のスローガンが出たこともありました。

改革開放後、上海、深圳などの沿岸部の都市が目覚ましく発展した頃には、逆に重慶から投資が逃げて、伸び悩む時期がありましたが、西部大開発や直轄市昇格に伴うインフラ整備により重慶は息を吹き返しました。現在、重慶市は、自動車、オートバイ産業、ハイテク産業、環境産業に力を入れています。オートバイと自動車の生産量はそれぞれ全国第1位と、全国第4位です。これらの産業に関係する日系企業としては、いすゞ自動車、スズキ、本田、ヤマハなどが進出しています。因みに重慶市内を走っているタクシーのほとんどがスズキ製です。また、ヒューレットパッカード(HP)、Acer、FoxconnなどのIT企業も進出しており、大規模な生産拡大投資が進行中です。製造業の投資が多い背景には、上海などの沿岸部に比べて労働コストが安価で豊富なことも一つの要因です。沿岸部の都市が軒並み月1100元~1300元の最低賃金なのに対し、重慶市では710元~870元となっています。先般、重慶市で行われた日中地域交流セミナーにおいて黄奇帆 重慶市長は、近い将来に重慶のノートパソコンの生産量が1億台となるので、日本のパソコン部品メーカーは是非、労働力の豊富な重慶に進出してもらいたいと熱く語っていました。


出荷を待つフォード車 重慶のタクシーはスズキ製

現在、重慶の産業構造は第一次産業が9.3%、第二次産業が52.8%、第三次産業が37.9%となっています。工業が重慶市のエンジンとなって経済を引っ張っている状況ですが、運輸、物流、金融・貿易、小売などサービス業にとってもこれからチャンス到来と言えます。

小売業では、カルフール、ウォルマート、メトロなど欧米大手が既に進出済みです。日本はローソンが2010年に第1号店を出店し、今後5年間で200店舗の開設を目指しています。


【両江新区プロジェクト】

重慶市の発展の行方を左右するとも言えるのが「両江新区」プロジェクトです。2010年6月18日、国務院により「両江新区」が正式に設立されました。中国では、上海浦東新区、天津濱海新区に続く、国家レベルの開発・開放新区です。「両江新区」は市中心部の北側に位置し、面積は1,200平方キロ、東京23区のほぼ2倍の広さとなっています。中央政府は「両江新区」に次の5つの都市機能を担わせています。

①都市・農村の発展改革実験のパイロットエリア
②内陸における重要なハイテク産業と高度サービス業の基地
③長江上流地域の金融中心
④内陸対外開放の重要な門戸
⑤科学的発展のモデル地区

具体的には、区の南部に「金融商務センター」、その北側に「ハイテク技術産業帯」、「都市 功能産業帯」、「物流加工産業帯」、「先端製造産業帯」を設け、世界各国からの企業誘致を進めています。


高速物流計画地図  両江新区の展示模型

また、同区は中国内陸唯一の保税港区を2カ所有しており、輸出型産業誘致のインセンティブとなっています。また、同区への投資に対しては「2020年まで企業所得税を15%に減免」、「企業所得税の地方部分(40%)を最初に2年間は免除、以後3年間は半減」、「管理職の個人所得税のうち地方部分(24%)を還付」などの優遇政策があります。

各国地域への物流網も「両江新区」の強みです。鉄道により4時間以内に武漢などの周辺都市に、8時間以内で上海、広州などの沿岸都市に達する目標です。重慶から新疆を通って欧州への鉄道が開通すれば現在、海上輸送により40日程度かかっている輸送期間が12日に大幅に短縮されます。HPが重慶に巨額の投資をしたのは、ヨーロッパまでの陸上物流が大きな要因だったと言われています。


【最後に】  

重慶をはじめ武漢など中部・内陸の発展をけん引する都市に行って、開発を目の当たりにするとそのスケールの大きさや、それに伴う需要の大きさに驚かされるばかりです。重慶は今後もインフラ整備や「両江新区」プロジェクト、サービス産業の発展等により、生産市場としても消費市場としても、とてつもなく大きな市場になると思います。「虎穴に入らずんば虎児を得ず」 まだ中国に進出していない企業でも、まだ中国内陸での勝負はこれからです。日本(大分)企業も今こそ自社の独自技術やノウハウを武器に中国内陸部の市場に挑んでみてはいかがでしょうか。

(在重慶日本総領事館の瀬野清水総領事によると、重慶市の目覚ましい発展は市トップの薄煕来書記、黄奇帆市長の強いリーダーシップも大きな要因と語っていました。日本も新しい首相が決まりました。政治の強いリーダーシップにより中国に負けないくらいの元気な日本を創ってもらいたいと切に願います。)


   

(以上)

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