日中経済協会上海事務所 大分県経済交流室 駐在員レポート
日本地域産品の中国市場開拓

県庁勤務時代を入れて大分県産品の中国市場開拓に6年間ほど関わってきました。大分県が中国本土への輸出振興に取り組みだしたのは2004年からです。その頃、iichikoの三和酒類は既に北京と上海で焼酎の発表会を行うなど、行政に先んじて中国市場への売り込みを行っていましたが、ほとんどの県内企業は中国の輸出にまだ関心を示していませんでした。

2011年春、大分県は上海を代表する高級スーパー「Ole」や「CITYSHOP」でフェアを開催し、たくさんの出展メーカーが上海に足を運び販売促進活動を行いました。現在、大分県産の焼酎、調味料、ミネラルウォーター、ナシ、果物ジュースが4年以上定番商品となっており、各種フェアを通じて定番化の可能性のある商品も少しずつ出てきています。

今回は中国における日本地方産品の中国市場開拓についての課題、将来性などについて、大分県企業の事例を引用しながら考えてみたいと思います。


CITYSHOPでの大分県フェア

≪中国市場における日本地域産品の現状≫

上海の高級デパート久光百貨の食品フアでは日本からの輸入商品が大量に販売されています。よく見ると商品のほとんどが日本のナショナルブランドの輸入商品または日本企業の現地生産商品であることに気付くと思います。地域産品として存在感を出しているのは青森のリンゴ、北海道、長崎の水産物、愛知の豆乳、大分のナシ、日本各地域からの日本酒・焼酎くらいです。1年前まではこれらに加え、北海道、熊本、大分産の牛乳が冷蔵コーナーで販売されていたが、その後発生した口蹄疫の影響で1年以上経った今も輸入が再開されていません。

中国一の国際商業都市上海でさえこういった状況なので、その他中国の都市は推して知るべしといった感じです。何の用務であれ、どこに出張したときも大抵は地下にある食品売り場によく行きますが、上海、北京、広州以外の都市では日本のナショナルブランド輸入商品でさえも探すのが難しく、ほとんどが日本企業の現地生産商品で、地域産品はたとえあったとしても酒類や調味料のごく一部しかないのが現状です。


≪地域産品が抱える課題≫

なぜ日本の地域産品は中国市場への参入が難しいのか考えてみると、以下の理由が考えられます。

(1) 輸入規制

中国へ輸入できる日本の生鮮食品はリンゴ、ナシ、鮮魚のみとなっており、中国人が大好きで、地域産品の代表ともいえる牛肉や、モモ、イチゴ、ブドウ、メロンなどは現時点で輸入が解禁されていません。日本がBSE(狂牛病)の発生国になっていることや、果物の中に病害虫がいる可能性があるとしてリスク分析されているといわれていますが、政治マターの側面が強いだけに、すぐに解禁になるとは考えにくいです。

また、中国人観光客が日本に旅行に行って、とてもおいしいと感動する「コメ」は中国政府が指定する特定精米工場での精米、病害虫を駆除する燻蒸処理をすることを条件に輸出ができますが、関税割当指定業者による取り扱いなどにより商流が決まっており、店頭に並ぶと2キロで198元(約2,500円)となり中国産高級米と比べ5倍以上の高値となっている状況です。

(2) 賞味期限    

日本から食品を輸入している商社や、スーパーのバイヤーと商談する際に、賞味期限は最低でも6カ月、できたら1年あると良いとよくいわれます。輸送時間、検疫・通関、当局が発行する検疫証明書発行までの期間、各店舗への配送などを含め、小売店の棚に並ぶのに製造年月日から2カ月程度を要するからです。棚に並んだ時点で製造日から賞味期限まで少なくとも半分以上残っていないと消費者も敬遠する傾向にあります。

おおよそ日本では賞味期限が短いものほど美味しいものが多いと思われ、メーカーの方もできるだけ早く、美味しいうちに消費者に食べてもらおうと、わざと賞味期限を短縮していることも少なくありません。日本の有名デパートが全国のこだわり地域産品を集めた売り場で、賞味期限が半年を超えるような商品は皆無と思います。中国市場では賞味期限の長い商品でしか勝負ができないのでハンディが大きいです。

(3) 価格   

日本産地域産品がなかなか普及しない最大のボトルネックになっているのが価格です。大分県産品を例に取ると、①大分から混載港である神戸(大阪)までの輸送費、②神戸(大阪)の商社のコミッション、③上海までの輸送コスト、④上海での関税、増値税など通関コスト、⑤中国側輸入商社のコミッション、⑥販売店のコミッションなどのコストがメーカーの卸価格に加算され、通常は日本での小売価格の少なくとも2倍以上になってしまいます。足が速くリスクの伴う果物の輸入の場合は、3~5倍になっているケースも見られます。確かに富裕層の多い上海、北京などの大都会では贈答シーズンを中心に1個1,000円以上もする大分県のナシが売れますが、数量はある程度のところで頭打ちとなっており、とても産地の満足する数量には届いていないのが現状です。

(4)「知らない」   

大分県の特産品に「柚子ごしょう」や「かぼすぽん酢」、「○○ドレッシング」などこだわりの調味料があり、日本では人気商品となっていますが、上海で販売してもほとんど売れません。中国人はそうしたものを知らないし、食べたこともなく、食べ方も分からないからです。加えて価格が高いとなれば売ることは不可能に近いといえます。中国人に食べ方から教えて商品を知ってもらうには、長い時間と莫大な費用を要します。地域産品を生産する中小企業にとって自社商品を知ってもらうためのPR費用は必要不可欠ですが、体力的に困難なケースが多いです。週末の人民公園で大塚製薬が数十人のキャンペーンガールを配置してポカリスェットを道行く人に無料配布している光景を見たことがありますが、知ってもらうにはそれなりのコストが必要となるのです。

(5) 熾烈な競争   

前述のとおり上海では、日本産ナショナルブランド輸入商品、日系企業の現地生産商 品、欧米、東南アジア、韓国など外国産商品、そして中国産商品が激しい販売競争を繰り広げています。ナシを例に取ると、大分日田梨のライバルとしては韓国産梨、中国山東省産の梨があり、それぞれ価格面では大分のナシより安く、品質も昔に比べて相当良くなっているので、それらとの差別化を図るのが年々難しくなっているのが現状です。


久光百貨に並んだ日田梨 専属販売員による試食販売

≪地方産品を売り込むには≫  

少子高齢化で今後日本のマーケットが縮小するため、発展が続き、個人所得が増えている中国に商品を売ろうという発想は分かりますが、地域産品をそのまま右から左に輸出にすることによってまとまった利益を出すことは相当に難しいといえます。プラザ合意時の日本のように、急激な元高の進行を中国政府が容認すれば、相対的に日本産輸入品の価格が大幅に下がり、輸出しやすい環境になりますが、中国政府がそうした行動を取る可能性は低いからです。

では、日本からの地域産品の輸出はどうすればよいのでしょう。これまで上海市内の高級スーパーで数多くフェアを開催した経験から、輸出で勝負できる商品は、例えば食品であれば安全性、美味しさ、健康に良いなどの特徴が中国人に理解され、価格が中流階級の上位層に受け入れられる商品だと考えます。また、何にも増して、効果的で継続的な試食試飲等のPR活動が重要です。以下に具体例を挙あげてみましょう。

(1)大分県産牛乳

大分県の九州乳業は06年頃から中国と香港向けに商社を通して牛乳や豆乳の輸出を開始しました。メーカーの九州乳業が現地に乗り込んで販路開拓や販促をしていたわけではなく、仲介する商社のルートを通じて商品が流れていたのです。08年秋に中国全土を震撼させる乳製品へのメラミン混入事件が起きてから、ニュージーランド、オーストラリア、フランス、日本から中国への乳製品輸入量は急増しました。九州乳業はこの事態を受けて、メーカー自らイニシアティブをとって中国市場への売り込みを始めました。10年1月にCITYSHOPで開催した大分県フェアの際には社員2人を派遣。九州乳業の牛乳の特徴をPRした中国語のPOPを用意して、試飲によるPR販売を行うとともに、会社の幹部はCITYSHOP社長との関係作りに動きました。このフェアで九州乳業の牛乳はフェアの終了を待たずに売り切れとなり、「あの牛乳はまだあるか」というお客さんが後を絶ちませんでした。


CITYSHOPでの牛乳プロモーション

≪CITYSHOPでの大分県産品フェア≫  

2月18日から1週間、今度は住宅街にあるCITYSHOPという高級スーパー2店舗で大分県フェアを開催。久光百貨で手応えをつかんだ乾椎茸を始め、10社31品目の商品が展示即売され、高橋製茶の「玄米茶」、湯布院散歩道の「ジャム」、ぶんご銘醸の「達磨焼酎」など5社が実演販売を行いました。CITYSHOPの崔軼雄社長によれば、中国でも食品の安全性について意識が非常に高まっていて、価格が少しくらい高くても安心安全で健康に良い商品は売れると言います。実際、今回出展した高橋製茶の「玄米茶」の茶葉は有機栽培で、玄米茶というお茶は中国にないため、試飲をすると大変好評でフェア終了を待たずに完売しました。同じくフェア期間中に完売した菊家の「地卵はちみつプリン」と一緒で、完売後も、買い求めに来るお客さんが後を絶ちませんでした。


CITYSHOP虹梅店 CITYSHOP天山店

フェアの結果を受けCITYSHOPは2010年2月、九州乳業に対して1リットルと200ミリリットルのLL(ロングライフ)牛乳を合わせて約1万本を発注しました。商社を通さず、メーカーとスーパーとの直接取引が行われ「夢の1コンテナ」が上海に渡ったのです。この1万本の牛乳を賞味期限の10日前までに完売させない限り2回目の注文はありません。メーカー、県庁、上海事務所で販促チームを編成して数店舗に分かれて試飲販売に取り組み、4月中旬までに輸入した98%まで販売しました。その後、宮崎県で口蹄疫が発生し、日本からの乳製品は1年経った今でも中国に輸出できない状況が続いていますが、CITYSHOPは輸入が解禁されればまたコンテナ単位で取引を希望しています。現在、輸出されていないので成功事例とはいいにくいですが、コンテナ単位で動く地方産品は極めて少なく、筆者の知る限りでは、リンゴ(青森県)、三和酒類(大分県)のiichiko、日田天領水(大分県)のミネラルウォーター、丸京製菓(鳥取県)の銅鑼焼きくらいです。

     

九州乳業の成功事例を分析してみると、次の点が成功要因として考えられます。

①中国人にとって牛乳は誰でも知っている健康飲料であったこと。
②中国産乳製品の安全性に中国人が不安を持っていたこと。
③もともと日本の商品は安全という意識が中国人にあるが、九州乳業は自社製品の安全性を中国語のPOPを使って消費者に分かりやすく訴求したこと。
④1リットルのLL牛乳の価格が29.8元、200ミリリットルが9.8元と中流階級の上位層に手が出る価格に設定できたこと。これは小売店側も九州乳業の牛乳の普及を後押しするために利潤を押さえ協力したことが大きい。
⑤濃厚でコクのある味が中国人に受け入れられたこと。
⑥九州乳業の社員、県職員、上海事務所職員、CITYSHOPの販売員が協力して最後まで店頭に立って試飲販売を行ったこと。
⑦安心安全な牛乳を子供に飲ませたいと思う親がいたこと。

牛乳という中国人が誰でも知っている商品でさえ、試飲活動によるPRは必ず必要です。いわんや「知らない」のに「価格が高い」というこだわりの日本地域産品を中国で売って行くには、カネ、ヒト、モノの投入が避けて通れないのです。 

(2)大分県産焼酎

冒頭に紹介したiichikoシリーズを輸出する大分県の三和酒類もコンテナ単位の輸出を継続している企業です。中国人にとって、焼酎はいわゆる「知らない」商品で、しかも値段も比較的高いといえます。上海には7万人とも8万人ともいわれる日本人が滞在しており、iichikoの消費者は今のところ日本人が大半ですが、既に、鹿児島の芋焼酎、沖縄の泡盛などのライバルも上海市場に参入してきており、日本人市場のパイの争いは限界にきています。大きな課題は中国人の焼酎市場を作ることです。三和酒類は現地販売代理店と組んで中国人に焼酎を飲んでもらい、好きになってもらうためにさまざまな取り組みを行っています。大分県フェアへの出展はもちろん、伊勢丹など有名百貨店で行われる催事にも出展。上海の百貨店でブランド力1、2を争う久光百貨地下1階食品売場に専用棚を確保して週末を中心に定期的に試飲販売を行ったり、取引のある居酒屋で若い中国人の少人数グループを集めて試飲会を開催したりして、地道に中国人のiichikoファンを増やしています。現地に事務所はありませんが、本社から営業マンが月に1回程度中国に出張し、現地代理店と販売戦略の打合せや営業活動を行っている点も見逃せません。こうした活動を通じて、最近では特に高級感漂うiichikoスペシャルや、女性に人気の果実酒iichiko BARシリーズがじわじわと浸透してきているようです。


伊勢丹の催事でiichiko販促 天皇誕生日レセプションでのPR

輸出で利益を上げるためには、混載で細々とやっても時間と手間ばかりかかります。九州乳業や、三和酒類のようにコンテナ単位での取引を目指していくべきだと考えます。

≪現地生産検討の時期≫  

現状の中国の輸入規制、関税率、為替レート、日中関係などを考えると、輸出で日本の地域産品が市場に食い込み、まとまった利益を享受するのは至難の業と思います。

輸出である程度の手応えをつかんだ企業は思い切って中国に出ることを検討すべきです。現地進出にはトップの英断が必要で、リスクはありますが、さまざまな規制やコスト上昇から解放される点は大きいと思います。日本からはその企業の持っている技術やノウハウやコアとなる原材料のみを持っていき、労働力やほとんどの原材料等を中国で調達して生産するビジネスモデルです。日本の大手食品企業の大半が既にこの方法で中国での生産を行っています。アサヒビールの現地法人は山東省でメラミン事件のさなかの08年に、日本の技術を使って牛乳の生産を開始。上海での販売価格は21~23元/リットルと、日本産LL牛乳より10元程度安く、またLLではなくチルドということで評判が良く、有名百貨店、高級スーパーの牛乳売場で最も幅を利せています。

生で食べられるタマゴ

現地生産は何も大手企業の専売特許ではありません。競争の激しい上海での内販で業績を上げている大分県の進出企業があります。日出町の大嶋正顕氏が社長を務める上海大鶴蛋品有限公司です(会社の登記をする際に中国の漢字で大嶋の「嶋」がないから「大鶴」となったとのこと)。06年に上海に進出し、自らが長年培った鶏卵技術を使って安心安全で生で食べられるタマゴを生産しています。取引先は久光百貨や第一八百伴、パークソンなど、ほとんどが名立たる高級百貨店・スーパーです。こうした売場で大嶋さんのタマゴは、現地の一般のタマゴの2~3倍の値段で売られています。販売を始めた5年前は購入者のほとんどが駐在している日本人でしたが、今では日本人の割合はたったの5%になり、中国人がほとんどを占めるようになりました。一人っ子政策の影響で、親は子供により良質な食品を与える傾向があり、安全、安心を求める消費者ニーズにうまくマッチしたことから売上は年々増えています。最近は、北京や成都の日系大型スーパーでも取り扱われるようになりました。


手作業で卵の色合わせをする 売れ行きが好調な「蘭皇」
〔出所〕筆者撮影 〔出所〕筆者撮影

終わりに

これまで、日本産地域商品については主に富裕層をターゲットにして売り込みを行ってきた自治体や企業がほとんどです。結果、地域産品の定番化はごく一部にとどまっているのが現状です。中国では今後も経済成長で購買力を増す中間層の需要は増えて行きます。輸出にしろ、現地生産にしろ、こうしたボリュームゾーンを意識した商品こそが今求められているのではないでしょうか。


   

(以上)

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