日中経済協会上海事務所 大分県経済交流室 駐在員レポート
湖北省知事公式訪問
~中国内陸部との新たな交流に向けて~

10月16日~20日、広瀬知事を団長とする大分県訪問団が、発展著しい湖北省との交流を探るため同省を公式訪問しました。省都の武漢だけではなくて、湖北省内の特色ある地域も是非、視察してもらいたいという湖北省政府の強い要望もあって、武漢市のほか、自動車産業が集積する襄陽市と、温泉リゾートでまちづくりを行っている咸寧市なども訪問し、湖北省の様々な姿を知ることができました。今回はこうした知事一行の湖北省公式訪問についてレポートします。


王国生湖北省長との会見

≪湖北省概要≫  

先ず、湖北省の概要について見てみましょう。湖北省は北海道の2倍以上の面積を有し、人口は約6,000万人で日本の約半分の人口を抱えています。湖北省に接する河南省、陝西省、重慶市、安徽省、江西省、湖南省を合わせると人口はなんと米国を超える3億5千万人まで膨らみます。GDPにおける産業割合は一次産業13%、二次産業47%、三次産業40%となっており、自動車産業、機械設備産業、鉄鋼業などの工業が湖北省の経済を牽引していると言えます。GDPは順調に推移しており、リーマンショックの影響もほとんど受けず、この数年13%~15%の非常に高い成長率が続いています。また、湖北省は地理的に、北京=広州の縦軸と、上海=成都の横軸の結節点に位置することから、高速鉄道や高速道路を使った物流の拠点としての役割も高まってきています。日系企業の進出状況を見ると、NISSAN、HONDA、NECなどの大手メーカーが製造拠点として早くから進出していますが、この数年は、日系企業の増加と個人所得の上昇を睨み、伊藤忠商事、みずほコーポレート銀行、東芝が営業拠点として進出しています。今年3月には、ジェトロも内陸部初の事務所を武漢に開設しました。湖北省は、歴史的にも魅力のある地域で、「三顧の礼」や「赤壁の戦い」を始め、三国志の舞台となった場所が多いのが特徴です。近代でも、1911年の「辛亥革命」の幕開けとなる武装蜂起が起きたのも湖北省武昌です。


中国統計年鑑、湖北省統計年鑑より筆者作成

≪自動車産業が集積する:襄陽市≫  

10月16日、訪問団は上海浦東空港から50人乗りの小型飛行機で空路3時間、やっと夜7時過ぎに襄陽空港に到着しました。夜にもかかわらず、湖北省外事弁公室の副主任が訪問団一行を暖かく迎えてくれました。襄陽市は人口約600万人で湖北省第2位の都市です。 襄陽市政府は国家級開発区において自動車及び自動車部品製造や、半導体などのハイテク産業を柱に経済発展を進めています。同市の范鋭平書記によれば、自動車関連企業を中心に日本からは20社が進出しており、日本人は経営者を中心に60名ほどが駐在しているそうです。17日には、開発区の自動車産業エリアにある東風日産(日産自動車と東風汽車の合弁会社)の工場を視察しました。ここでは高級車のTEANA(ティアナ)を年間約15万台生産。今年の9月から新たにスポーツSUVのMURANO(ムラーノ)の生産を開始しており、2012年はTEANAとMURANOで20万台の生産を目標としています。部品は8割が中国内で調達、日本からの部品は2割。TEANAは売れ行きが好調で、現在、納品は3カ月待ちの状態です。さすが土地の広い中国だけあって生産ラインは平面に流れていて、ロボットがなく、すべて人を使って組み立て作業が行われていました。印象に残ったのは、合弁とはいえNISSANの主要工場で常駐の日本人がいなかったことです。広州にある本社から日本人幹部がときどき来るぐらいで済むよう現地化が進んでいることが伺えました。


襄陽市范鋭平書記との会見 東風日産を視察
≪大分県企業も進出≫

次に、同じ開発区内で東風日産に自動車用シートを供給するためのサプライヤーパークを建設中の日本発条(ニッパツ)を訪問して坂本博樹 総経理(社長)にお話を伺いました。

今年8月に着工した自動車用シートの部品メーカー7社が入るこのパークは面積が16万㎡で、工場が完成するのは来年の5月です。大分県国東市でNISSAN向けにシートの樹脂部分を製造している豊洋精工もここに入居する予定です。坂本総経理によれば、現在、東風日産のTEANAのシートは仏系メーカーが武漢で製造し、襄陽まで運んでいますが、来年からはサプライヤーパークでの一貫生産によるコスト削減により、日本発条が受注することになっているそうです。坂本総経理は、サプライヤーパークを将来的には、1,000人規模にして、従業員用の宿舎や食堂もつくりたいと目を輝かせていました。


計画を説明する坂本総経理

≪三国志に思いをはせた赤壁≫  

18日、武漢から車で南に3時間、「赤壁の戦い」の赤壁を訪問しました。赤壁の近くには「三国赤壁古戦場」というテーマパークが9月にオープンしており、ちょうどパフォーマンスを行っていました。箱モノは、スケールは大きいのですが、まだすべての施設が整っていない感じで、本当のテーマパークになるにはまだ時間がかかりそうです。テーマパークのある場所から小山を超えると、長江の流れを見守るように赤壁が聳え立っています。「赤壁」という文字が思っていたよりも小さかったですが、ゆっくりと流れる長江や対岸の烏林に1800年前に曹操と劉備・孫謙連合軍がこの場所で戦ったという臨場感を味わうことができました。


赤壁

≪温泉リゾートで町おこし:咸寧市≫  

赤壁から北(武漢方面)へ車で1時間ほど戻って、温泉でまちおこしをやっている咸寧市の代表的な温泉リゾートホテルを視察しました。潜山国家森林公園の中に位置し、総面積は53ヘクタールというとてつもない大きな敷地で、薬湯、バラ湯、魚湯、砂湯など100以上の温泉池があります。中国では日本と違って水着を着て温泉に入ります。視察した日も平日ながら家族連れなどが遊びに来ていました。ホテル関係者によると、11月、12月、1月の冬がハイシーズンで、クリスマス時期や春節は1カ月以上前に予約しないと部屋が取れないそうです。咸寧市には全部で7つの温泉場がありますが、2年前には全部の温泉で一度に10,000人が入浴をしてギネスブックに登録されています。咸寧市の黄楚平 書記は、環境に配慮した温泉リゾートを進化させるため、温泉世界一の大分県とこれから交流をしていきたいと期待を膨らましていました。


三江森林温泉リゾート カップル用の温泉も

≪経済・観光セミナーで大分をPR≫  

19日、咸寧から武漢に入り、大分県の産業や観光について知ってもらうセミナーを開催したところ、旅行エージェントや企業関係者など約60人の参加がありました。質疑応答では、「大分の観光やグルメを満喫しようと思ったら、費用はいくらかかるのか」、「どうして地獄というネーミングなのか」、「チャーター便への補助はあるか」、など多くの質問が出て、大分県の観光に関心が高いことが伺えました。セミナーのあとは工業班と観光班に分かれてそれぞれ意見交換を行いました。


大分県経済・観光セミナー 意見交換会

≪終わりに≫  

湖北省の王国生省長は、大分県とのビジネスや観光の交流に大変関心を示していました。これまで大分県は主に上海で事業活動を展開していましたが、これにプラスして、産業構造や観光振興で大分県と共通部分が多く、消費市場としての魅力も高まる湖北省と交流することはとても意義深いと思います。今回の湖北省公式訪問により「お見合い」は成功したので、今後は双方にとって利益になるような交流を進めていく方針です。


   

(以上)

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