半年間にわたり数々の話題を振りまいた上海万博が10月31日に終了しました。来場者は当初目標の7,000万人を超え、7,300万人となり、大きな事故もなかったことから中国では大成功とされています。空港の拡張、地下鉄の延伸、バイパス道路の整備など上海万博の開催により、上海市の交通インフラは世界の主要都市並みに整いました。また、大勢のボランティアによって市民のマナー意識も向上したように見受けます。万博終了後に上海経済や市民生活がどうなって行くのかは関心の高いところです。 |
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≪サービス経済化≫
2008年秋に起きたリーマンショックによる世界経済不況で、常に中国経済を上回る勢いで成長してきた上海経済にブレーキがかかりました。それまで上海経済を牽引していた輸出が急激に落ち込み、投資は低迷し、2009年第1四半期(1月~3月)の成長率はなんと3.1%まで落ち込みました。しかし上海経済はここで底を打ち再び上向きに転じます。輸出の落ち込みをカバーして牽引役となったのは固定資産投資と消費です。虹橋空港の第2ターミナル・滑走路の建設や、バイパス道路など万博関連のインフラ投資に加え、外国からの直接投資が増加しました。2009年上半期の外国直接投資額は51.6億ドルで、その約70%がサービス業関係への投資になっています。また、消費は堅調を維持して2009年上半期には前年比約14%の伸びで、サービス経済化の進展が明確になったと言えます。 |
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≪内需主導の強まり≫
もともと上海市の産業構造は2000年頃から第二次産業と第三次産業が拮抗して伸びを見せていましたが、2009年には第二次産業が落ち込み39.9%になったのに対し、第三次産業は59.3%を占めるようになりました。完全にサービス産業が上海経済の主役の座についたといえます。また、ここ数年、社会消費品小売総額(消費)は2009年に14%増、2010年上半期は17.5%増とひときわ高い伸びを示していることが分かります。これは、経済成長による所得の伸びに加え、政府が省エネ車の購入に対する税の軽減などの消費刺激策を講じたことも要因として考えられます。輸出については2010上半期に33.5%と一見伸びていますが、これは前年の数値が経済不況の影響でマイナスになっていることから、もとに戻ったに過ぎません。労働コストの更なる上昇が今後予想される上海において、上海経済を牽引するエンジンは輸出頼みの外需主導から消費を中心とした内需主導に移ろうとしているのです。 |
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≪万博の効果≫
上海万博開催も上海経済を押し上げる効果がありました。2010年上海市の上半期経済成長率は全国11.1%を上回る13%となったのです。万博投資が終了して、不動産投資抑制策が取られたことから投資は2.2%の微増となりましたが、消費は小売総額415億元増で昨年同期の伸び率+3.7%となり、上乗せ効果がありました。ただ、万博の効果については、単に経済的な効果よりも、ファッション、環境、技術、マナーなど「都市」が持つ大きな魅力に多くの中国人が触れ、感動したことが重要で、今後の上海、中国の経済発展に大きな影響を及ぼすことになると思います。 |
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≪上海経済の今後≫
上海市政府は万博後も経済成長を持続させるため、ポスト万博の新発展戦略として、サービス経済化と高付加価値化の2つを打ち出しています。このうちサービス経済化に関しては、具体的には国際経済、国際金融、国際水運、そして国際貿易の4つのセンターを目指すとしています。また、高付加価値化に関しては、新エネルギー、バイオテクノロジー(医薬)、省エネ自動車などハイテク9業種を産業奨励していく方針です。 ただ、上海経済の成長率がこれまでのような全国レベルを上回るペースで推移することは難しいと思います。リーマンショック直後に上海経済が急激に落ち込んだことは先に触れましたが、この影響の出た2009年上半期に10%以上の高い成長率をたたき出していたのは湖北省、四川省、重慶市などの中部・内陸都市です。世界経済が足踏みしている中で、今後はこれらの中部・内陸が中国の成長を牽引していくことになります。 先般、北京で開催された次期5カ年計画の方針を決定する共産党の重要会議(5中総会)では、「経済発展モデルの転換」、「内需を拡大しバランスのとれた成長を実現する」「資源節約型社会の構築」などに努める方針が決定しました。中国は今まさに「量」社会から「質」社会への転換を目指しており、それを「都市化」によって達成しようとしているのです。 その「都市化」のモデルケースとして金融、物流等の高度な経済機能を集中させ、消費スタイルでもリードしていくのが上海なのです。 |
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≪先進国病への対応≫
「都市化」によるプラスの面は大きいですが、「都市化」はマイナス面も生み出します。上海は他の地域に先んじて住宅問題、高齢化問題、環境問題などの先進国型の課題に直面しています。上海のマンションの価格が高いことは有名ですが、現在、内環状線内の新築マンションは7万元/㎡~8万元/㎡です。仮に100㎡として700万元(8,400万円)となり、ごく一部の富裕層しか買えない状況です。 |
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また、上海市の高齢化率(中国では60歳以上が高齢者)は22.9%と中国で最も高齢化が進んでいます。こうした状況に対して上海市政府は10月に入って不動産投資抑制策を強化し、1世帯が新たに購入できる上海市の住宅は1軒のみとする措置を実施しました。高齢化問題に対しては、全国に先駆けて技術職を対象に退職年齢を男性65歳、女性60歳に引き上げました。上海市政府は表向きの理由をスキルの有効活用としていますが、年金支払いの引き延ばしと見る向きもあります。 都市化によって発生するこうした難しい諸課題にどう対応していくかが今後の上海市の発展を大きく左右するものと思います。 |
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