日中経済協会上海事務所 大分県経済交流室 駐在員レポート
中国牛乳事情 ~激化する高品質牛乳市場~

  中国全土を揺るがした乳製品メラミン混入事件から1年が経過しました。当時、メラミンの混入は粉ミルクだけにとどまらず、牛乳、ヨーグルトなどの乳製品にまで広がり、「蒙牛」、「伊利」、「光明」といった国内有力メーカーの商品からも微量ながらメラミンが検出され、国民生活に大きな影響が出ました。この事件を受け、中国政府による一連の規制、検査体制が整備されましたが、不安をぬぐえない消費者は、値段が高くても安心安全な牛乳を求めるようになっています。こうしたことから現在、中国では外国からの輸入牛乳に対する需要が増える一方、中国国内でも「有機牛乳」といった付加価値の高い牛乳の生産に取り組む企業も出てきています。今回はこうした牛乳をめぐる動きについてレポートします。



≪伸びる牛乳生産量・消費量≫

  中国では所得の上昇に伴い、一般家庭での冷蔵庫の所有と洋食文化が広く普及するようになりました。これにより乳製品の安全な保存が可能になった事と健康食品であるという認識が高まり、中国の乳製品市場は急速に拡大しています。日本の生乳生産量はこの20年間、年間約800万トン強で横ばいの状態ですが、中国の生乳生産量は1985年にはわずか250万トンでしたが、20年後の2005年には2,860万トン、2008年は3,651万トンと飛躍的な伸びを見せています。一人当たりの生乳消費量も1985年は3.3キロだったのが2008年には21.7キロとなっています。1人当たりの牛乳消費量が先進国に比べて低い中国では、今後、内陸部や農村地域を中心とする所得水準の向上や健康意識の高まりにより、牛乳市場は更に拡大するものと思われます。



生乳生産量の推移 一人当たりの牛乳消費量

≪輸入牛乳が急増≫

  メラミン事件の影響もあり、最近、外国からの乳製品の輸入が急増しています。中国税関の統計によると、2009年上半期(1-6月)の中国の乳製品輸入量は、前年同期比83.7%増の29万8千トンでした。2007年に中国に輸入された牛乳の国別割合では、NZが54%で1位、2位が19%のフランス、3位が14%でオーストラリア、この時点では日本は1%のシェアしかない状況でした。現在、日本の牛乳で上海に定期的に輸入されているものは、すべて賞味期限3カ月のLL(ロングライフ)牛乳で「北海道牛乳」、らくのうマザーズの「大阿蘇牛乳」、そして九州乳業の「くじゅう牛乳」の3種類です。現地の牛乳の3倍以上するこれらの日本産牛乳は、上海の百貨店、高級スーパーでしか売られていません。商社の日系商社と組んで、今年4月から販売が始まった「大阿蘇牛乳」は1本29.8元で売られていて、40元近い価格の「北海道牛乳」、「くじゅう牛乳」に比べて各店舗での取扱量が増えているようです。


久光百貨店に並ぶ日本産牛乳 豪州産牛乳

  今年6月1日に食品安全法が施行され、輸入される牛乳についても安全検査が厳しくなっており、検疫当局の品質検査に1カ月ほどかかっています。日本産牛乳は賞味期限が3カ月ですが、店頭に商品が並んだ時点で1カ月余りしか賞味期限がなくなっているケースが多くなっています。これに対し、豪州・NZ産や欧州産のLL牛乳の賞味期限は9カ月~1年となっており、価格も20元~25元程度で日本産に比べて安いので有利な条件で販売されていると言えます。



≪高品質、高価格の中国製牛乳も登場≫

  富裕層向けに中国製の安心安全な牛乳を売ろうとする動きも見られます。中国食品大手の光明集団傘下にある上海牛乳集団は、安徽省黄山山麓にある80ヘクタールの有機牧場(無農薬、無抗生物質、無化学肥料)で飼育する200頭のジャージー牛から生産される「有機鮮牛乳」(賞味期限5日)を上海市限定で富裕層向けに販売しています。宅配が中心ですが、「牛乳棚」という専用売り場やCITYSHOPなどの高級スーパーでも一部販売しています。販売価格は10元(245m)、18元(490ml)、36元(950ml)と日本からの輸入牛乳並みとなっているのですが、「牛乳棚」の店員によれば、毎日、午前中で売り切れるほど良く売れているそうです。また、アサヒビールが伊藤忠商事と共同で山東省に設立した「山東朝日緑源乳業有限公司」は、日本の最新技術を導入して「唯品純牛乳」という成分無調整牛乳を昨年秋から販売しています。価格が22元~23元と、日本産LL牛乳より安く、しかも日本企業が管理してつくった牛乳ということで今のところ日系の牛乳ではおそらく売上No.1だと思います。


有機鮮牛乳(於CITY SHOP) 「唯品純牛乳」(於GLJAPANPLAZA)

≪最新設備が整う中国の牧場≫

  8月、上海市内から車で2時間半の江蘇省塩城市にある上海牛乳集団の海豊牧場を訪れる機会がありました。今年2月に完成し6月からオペレーションを開始した新しい牧場です。乳牛は豪州からの輸入で現在5,000頭。第1期計画では3,300㌶に1万頭の飼育を目標にしていて、最終的な目標は第4期で4万頭となっています。国費が投入されていることもあり、牛舎、倉庫など建物はとても立派で、ロータリーパーラーやミキサー設備は最新鋭の機器が設置されていました。乳牛1頭あたりの乳量が目標に届いていないため、飼料の配合などによって乳量アップが課題とのことでしたが、こうした中国の最新鋭牧場で質の高い牛乳が大量にできるようになる日もそう遠くはないと感じました。


展望タワーから見た牧場 温家宝首相の夢

  立派な牧場施設の中には見学コースが設けられており、その中に子供たちの写真と一緒に温家宝首相の夢が書かれてありました。「私には一つの夢がある。それは、子供をはじめすべての中国人が毎日500グラムの牛乳を飲めるようになることだ。」

  今後も高品質牛乳に対する需要は高まり、中国内外の乳業メーカーによる熱い戦いが繰り広げられそうです。



 

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