日中経済協会上海事務所 大分県経済交流室 県人会
中国で活躍する大分県企業(3)

  世界経済は金融危機による不況の中で、ようやく明るい兆しが見えるようになりつつある状況ですが、4兆元を超える経済対策を早期発動していち早く経済を軌道に乗せようとしているのが中国です。高速鉄道はじめとするインフラ整備や、省エネ家電や小型自動車の普及政策などの内需振興により世界経済の成長エンジンとして中国への期待が高まっています。そうした中国に進出している外資系企業は約28万社で、そのうち日系企業は約2万3千社です。上海市だけでも約6千社の日系企業が進出していますが、大分県企業の進出はごくわずかにとどまっているのが現状です。こうした中、中国で頑張っている大分県企業をご紹介します。


≪平和(蘇州)五金製品有限公司≫ ≪平和美全展示設計制作(上海)有限公司≫

  別府市に本社のある(株)平和マネキンは1949年にマネキン人形の製造販売を目的として創業。当初はマネキン事業のみを行っていましたが、「置くもの、吊るすもの、掛けるもの」などのディスプレイ什器の製作・販売・レンタル事業も開始。今では店舗の企画設計・内装工事も手掛け、お店の空間づくりをトータルコディネートする会社になっており、取引先もユニクロ、イオン、イトーヨーカドーなど大手企業に広がっています。

  同社が最初に海外展開した先は台湾でした。1992年に台湾でディスプレイ什器を製造する台湾和平有限公司を設立し、この合弁会社と2002年に江蘇省太倉市に設立したディスプレイ什器製造会社が平和(蘇州)五金製品有限公司(以下、「蘇州平和」)です。2005年7月に同社が独資で中国国内販売を目的に設立した上海美全展示設計制作(上海)有限公司(以下、「上海平和」)の澤田道彦総経理に同行して6月に「蘇州平和」を訪問させてもらいました。上海市嘉定区から江蘇省に入ったすぐのところにあり、上海市内から車で1時間30分ほどで到着しました。地元政府が用意した工業団地の中にある工場は、敷地面積約6万㎡、延べ床面積は約3万2千㎡でその広さに圧倒されました。地元政府が熱心に企業誘致をしていたことや、台湾企業との合弁会社ということもあり会社設立や工場建設はすスムーズにいったそうです。

蘇州平和 工場全景

≪お店の商品以外は何でも揃う≫
  まず、最初に案内されたのが、製造したディスプレイ什器のショールーム。見ればファッション関係の商品棚、ハンガー、フィットルームなどのほか、携帯電話販売カウンターや、レストラン用のイスや机までもありました。台湾人で総務担当の張継盛経理によれば、「お店の商品以外は何でも揃うと」のこと。中国企業が製造するディスプレイ什器は金属製のもがほとんどですが、蘇州平和では木と金属を組み合わせたおしゃれな什器が作れるのが強みです。また、オーダーメイドの商品が多いのもこの工場の特徴です。輸出と国内販売の割合は、アメリカ、日本、豪州、欧州など海外向け輸出商品が概ね7割、国内販売が3割。昨年の金融危機以降、輸出商品は少し落ち込んでいるようですが、中国内では山東省のマクドナルドや、上海のUNIQLOから注文が入るなど、上海平和を通して少しずつ国内向けが増える傾向にあります。
什器のショールーム マクドナルドへの納品されるテーブルセット

≪人材確保が課題≫
  工場で働く従業員は現在約450名で、主に四川省や安徽省出身者が多く、金融危機前の繁忙期には600人まで増えたそうです。金属加工、木材加工、みがき塗装など、(中国企業しかできない)メッキ以外はすべてこの工場で行うことができます。各工程には熟練工の班長がいて若手工員の指導にあたる姿も見られました。張継盛経理は、世界景気が持ち直せば、従業員の募集をしなければならないが、周辺地域では金融危機以降、里帰りした工員が戻ってこなくなり募集が思うようにいかない、と心配もあるようです。また労働者の賃金上昇も悩みの種ですが、今後は少しでもコストを抑えて得意のデザイン性で付加価値を高め、ライバル企業との差別化を図っていきたいとのことです。
什器の作業現場 蘇州平和の林小晴副総経理ほかと

≪上海大南服飾有限公司≫
  上海市内中心部から南西に15Kmほどの闵行区の工業区内にある上海大南服飾有限公司(以下、「上海ダイナン」)は大分市の(株)ダイナンの独資企業で、有名メーカーの子供服やスポーツウエアをOEM生産しています。(株)ダイナンの但馬克介社長は「90年代に入りバブルがはじけたあと、会社の経営を考え上海に工場をつくった」そうです。1994年の会社設立や工場建設の際には、大分に留学経験のある中国人の力を借りながら、ほぼ1人で煩瑣な手続きをクリアして操業にこぎ着けました。現在、工場では事務職12名を含む約220名が働いています。上海ダイナンの特徴は、情報技術(IT)を活用して生産を効率化しているところです。取引先のアパレルメーカーが作成した型紙もCAD(コンピューターによる設計)で直接出力でき、CADを介さずに裁断機にデータを送って生地をカットすることも可能です。

上海ダイナン 但馬史晴取締役

≪中国内向けが好調≫
  上海に4年の駐在経験があり、今も出張ベースで工場を訪れる(株)ダイナン取締役の但馬史晴さんによれば、昨年の金融危機の影響もさほど受けずに業績は順調に推移しているとのこと。取引先はスポーツ用品や子供服関係の大手ブランド企業がほとんど。約8割の製品は日本へ輸出されますが、最近では中国での内販商品として上海にある日系スポーツ用品企業に卸すことも多いそうです。今後、中国の経済成長とともにブランドのスポーツウエアや子供服に対する需要が見込まれ、国内向け販売の増加が期待されています。

縫製作業の様子 刺繍の段取りをする従業員

≪今後の課題≫
  但馬さんは、大きな課題は2つあるといいます。1つは従業員の確保。縫製といった地味な仕事なので、若い人が敬遠する傾向にあり、人が集まりにくくなっていること、もう一つは、賃金の問題。但馬さんが初めて上海に駐在した2004年の10月の最低賃金は635元でしたが、2008年4月には960元となり、人件費は3年半で30%以上増加。また、ガソリン、電気などの光熱費も上がっており、コスト高にどう対応していくかが課題となっています。こうした課題と闘いながら上海の若い人材を育成し、「上海ダイナン」をダイナングループのブレーン機能を担う工場、クリエイティブな工場にしていきたいと話していました。

 

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