日中経済協会上海事務所 大分県経済交流室 駐在員レポート

小皇帝たちの結婚事情

               『上海の5,000組のカップルが北京五輪開会式当日に結婚』として、上海現地紙(「東方早報」2008年8月5日)は北京五輪開会式に合わせて結婚するカップルを取り上げました。2007年に上海で新しく誕生した夫婦は約12万組でしたが、2008年はオリンピック年と西暦の末尾にある『8』という縁起のいい数字が重なったことから、約14万組のカップルが誕生しました。北京五輪以降、2009年、2010年もこの結婚ブームは続くようです。2009年は旧暦でみると年間2回立春がある縁起のよい「双春年」の上、末尾の『9』という数字は中国語で「jiu」と発音され、「長い、永遠」といった意味を持つ「久」の字と同じ発音になります。また、2010年は区切りの良い偶数年で、1980年代の出産ピーク時に生まれた小皇帝(注)たちがちょうど結婚適齢期を迎える時期でもあるからです。

<初めて出席した中国の結婚式>
上海に赴任して間もない昨年6月、中国人の友人から、彼の弟の結婚式に招待されました。結婚式場に行ってみると、会場入り口では新郎新婦が揃って招待者を迎え入れ、一人ずつ挨拶をし、記念写真を撮る人もいました。新婦が某市政府幹部の娘ということで、5つ星ホテルに招待された人は外国人含め約1,000人。メイン会場だけではテーブルが足りず、ほかにも3つの会場に宴席が設けられていました。メイン会場以外では、歌などの催しものを楽しみながら食事をしているのです。 日本の結婚式と異なる点をいくつか挙げてみると、①招待された人たちがほとんど普段着で出席しており、背広にネクタイ着用で出席したのは10人ほどの日本人だけだった、②メインテーブルが親族席、③親族の挨拶が早いタイミングで行われる、④終始大変賑やかであり、会場が静かになることはない、⑤式終了前でも三々五々会場を後にする、⑥引き出物はチョコレートやキャンディーなど簡素なものが中心、等です。また一方で、来賓挨拶があったり、お色直しがあったり、新郎新婦が各テーブルを回って挨拶したりするのは日本と同じです。 結婚費用を尋ねてみると、前撮り写真、宴会、婚礼衣装、家具・家電の購入、新婚旅行、その他費用で約80万元(約1,100万円)で、ほとんど双方の親が負担したとのことでした。招待された人は「紅包」と呼ばれる祝儀を1人200元~1,000元持ってくるとはいえ、親の負担は大変なものです。

披露宴会場の様子 祝いのシャンパン

<最近の結婚状況> 
上海市民生局が行った結婚に関する調査によると、2008年上海市での結婚登録数は13万8,931組となり、前年比17.9%増となりました。結婚した男性の平均年齢は32歳、女性は29.6歳で2007年とほぼ同じです。初婚年齢に限ってみれば、男性は28.5歳、女性は25.9歳です。上海市婚慶行業協会の何麗娜 秘書長は、法的に認められている婚姻可能年齢(中国では男性22歳、女性20歳)に達すると、すぐに結婚する人が全体の約30%を占め、25歳~27歳のいわゆる結婚適齢期に結婚する人が約40%、それより遅い人が約30%。以前に比べて、中国でも晩婚化が進んでいる原因としては、出会いの機会が少ないことや、近年、女性が高学歴になり、自分よりも学歴の高い男性を見つけようとすることから結婚が難しくなってきているとのことです。上海では両親や友人の紹介などの見合いが多く行われており、見合い結婚も約半数近くにのぼります。上海人の友人によれば、「恋愛は自由でも、いざ結婚となれば相手に求める要求はいきなり高くなる。そのために、付き合っている人と別れる人も少なくない。見合いだと、事前に相手のプロフィールも把握でき、両親も認めているので見合いする人は多い」ということです。
また、中国では、昔から結婚とは当人だけのことではなく、家と家の問題という意識が根強く、小皇帝とか「80后(1980年代生まれの人を指す)」と呼ばれる新しい価値観を持った若者でさえ、親の望まない結婚は極力控えるといいます。

<親が熱心なお見合い>
一人っ子政策を推進している中国では、大事な子供の結婚は若者当事者たちより、親たちの方が熱心なようです。毎週末になると、上海市内の人民公園には年頃の子供を持つ40代後半~50代くらいの親たちが、子供の結婚相手を探すために集まる場所があります。こうした状況を確かめようと、2009年1月に現場へ行ってみたところ、500人は下らないほどの人だかりを発見しました。

人民公園に集まった親たち たくさんの自己紹介カード

公園の周りに下げられた紹介カードを熱心に見て回っている親や、自分の子供の紹介カードを持って歩いている親、数人で情報交換をしている親などでごった返しており、歩けば肩がぶつかるほどの混みようでした。なかには、米国留学時の息子の写真やプロフィールを掲げて誇らしげにしている父親もいました。全体的に男性よりも女性のカードが目立ちました。紹介カードに書かれている内容は主に大きく二つに分けられます。一つは自己紹介で、もう一つは相手に望む条件です。下記はその一例ですが、条件には必ずといってよいほど「高身長」、「マンション所有」が盛り込まれていることが特徴です。

(紹介カードの例)

女 81年生まれ
身長 1.55m
上海戸籍
勤務先 ××銀行
(要求)
年齢差6歳以内
上海戸籍
マンション所有
身長1.7m前後
家庭環境良好
連絡先 ××××

 

女 84年生まれ
身長1.63m
××大学卒
IT関係
(要求)  
大卒以上
身長1.70m以上
責任感あり
有害習慣無し
マンション有り
携帯電話 ××××

 
この混雑した状況の中、母親連れの妙齢の女性がいたので、どうしてここに来ているのか尋ねてみました。すると、平日は仕事で忙しく、週末はゆっくり休みたいので、なかなかいい人と出会う機会がない、というのです。上海市政府で働く彼女に結婚相手の条件を聞いてみると、①身長、②経済力、③ルックスの順という答えが返ってきました。隣に居た母親はといえば、①月給2万元以上、②上海戸籍所有、③背の高い人、とのこと。気に入った人がいれば連絡先をメモして、帰って子供と相談し、気に入れば見合となります。中国の経済成長率は、2008年は9.0%でしたが、その前の数年間は10パーセントを超えるなど、急速な経済発展を遂げています。こうした社会で働いている若者にとっては、仕事に追われる日々が続き、休日は家でゆっくりしたいという気持ちは理解できます。ただ、条件に合う人を探して、見合いをしてすぐ結婚となると、どうも機械的であるように感じ、果たして結婚後はうまくいくのかどうか心配です。

<ブライダル産業>
経済発展により市民の所得が上昇し、人生の一大イベントである結婚にかかる費用も年々増加しています。前出の何秘書長によれば、新居費用を除く上海市の一組当たり平均結婚費用は約20万元(日本円約275万円)。少なく見積もっても、ブライダル市場は250億元程度あることになります。こうした状況に目を付け、日系ブライダル企業が北京や上海に進出しています。なかでも、上海市内にブライダルサロンを2店舗展開しているワタベウェディングは、前撮り写真、ドレス、メイクアップ、結婚式プロデュースなどをトータルでサポートし、個性の強い若いカップルのたちのニーズに応えています。同社の増谷公香 副総経理によれば、小皇帝世代には両親と双方の祖父母を含め、合わせて6つの財布があることから、結婚式にはかなりの費用をかけ、派手な演出になっているとのことです。また、他人とは違う結婚式を望む若者も多く、最近はサイパン島を中心に海外での挙式も少しずつ増えているそうです。

(着物のウェディングドレス) (結婚式に欠かせない前撮り写真)

<結婚観の多様化>
ジェトロ上海センターのナショナルスタッフ約30人に、結婚に関するアンケートを実施しました。(このうち、見合い経験者は約3分の1。)相手に求める条件として多かった回答は「人柄がいい」と「価値観が合う」です。その次は順番に「経済力」、「家柄が合う」、「ルックス」となりました。前述の人民公園の紹介カードとは少し趣が異なり、相手の中身や内面を重視する人が多いようです。あるマーケティング会社が2008年4月~5月にかけて上海在住の20代~30代中国人男女各45人を対象に行った調査でも「優しい」、「気が合う」といった性格的な要素を重視する結果が出ていて、従来のような経済面や外見一辺倒でなくなってきています。経済発展に伴い、上海ではこうした結婚観に変化が起こっていることから、おそらく中国全体でも今後、少しずつ結婚観が多様化して行くものと思われます。結婚観の多様化は婚礼の多様化、個性化にもつながることから、きめ細かなサービスを得意とする日系ブライダル企業にとっては大きなビジネスチャンスが期待でき そうです。

 (了)

〔注〕中国政府が打ち出した一人っ子政策以降生まれた子供。世代としては「80後世代」 中国語で「バーリンホウ」と呼ばれる。富裕層や中産階級に生まれた「一人っ子」に対して、過保護なまでに衣食、教育を施す傾向がみられるようになり、こうした環境で育った子供を皮肉の意味もこめて「小皇帝」と呼ぶ。    

 
【 もどる 】    【 Top 】