「丸紅とアサヒビールが中国ワイン市場へ参入」。経済危機の影響や少子高齢化により市場が縮小している日本から、人口が13億で経済成長が続く巨大市場を狙って中国に進出する企業が増えています。もともと中国にはなかったビール、ワインの市場は、今や世界各国のメーカーが群雄割拠する激戦市場になっています。また、ビールやワインに比べるとまだまだ小さい焼酎市場ですが、こちらでもワインと同様に文化の壁を越えようとする動きがあります。今回はこうした中国のお酒市場を巡る動きについてレポートします。
≪世界最大のビール市場≫
中国の伝統的なお酒といえば、茅台酒や五粮液、汾酒といったコウリャンやトウモロコシなどでつくるアルコール度数の強い白酒(Baijiu)と、紹興酒や老酒など、もち米を原料に醸造してつくられる黄酒(Huangjiu)が有名です。一般的には北京や四川省など華北地方や内陸部の人は白酒を好み、上海、浙江省など華東地方の人は黄酒を好むといわれています。中国の長い歴史の中で、ビールの歴史はそう古くはありません。中国で最初につくられたビールは青島ビールと思っている方が多いと思いますが、実は中国初の国産ビールは1900年にロシア資本によってつくられたハルピンビールです。青島ビールは、ハルピンビールに遅れること3年の1903年にドイツとイギリスの合弁会社によって製造されるようになりました。本格的にビールが生産されるようになったのは、中国建国の1949年以降です。上海を含む旧租界地のビール醸造技術が全国に広がり、各地に数々のビールメーカーが誕生しました。
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世紀聯華スーパーのビールコーナー |
キリンのキャンペーンガール |
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かつては富裕層しか飲めなかったビールも改革開放以降、家庭でも日常的にビールが飲まれるようになりました。1990年代に入り高度成長とともにビール消費量はぐんぐん上昇し、ついに2003年にはアメリカを抜いて中国のビール消費量は世界1位になりました。その後も順調に中国ビール市場は拡大を続け、2007年まで5年連続して1位をキープしています。ビールの価格が信じられないくらいに安いことに加えて、地球温暖化で熱い時期が長くなったこともあり、ビールの消費量は年々伸び続けています。一人当たりの年間消費量でみると、年間約28リットルで、まだまだ日本の6割程度の消費量しかないので、今後さらなるビール市場の拡大が見込まれます。現在では、生産量中国No1の青島ビールのほか、大手グループとして北京の燕京ビール、広州の珠江ビール、香港資本の雪花ビールなどの中国系が展開し、外国勢では、バドワーザー、ハイネケン、カールスバーグ、サントリー、アサヒビール、キリンビールが市場参入しています。「中国系」、「日系」「その他外資系」メーカーが入り乱れ、ビール市場では熾烈なシェア争いが繰り広げられています。サントリーは上海エリアに特化したローカルブランド戦略により上海ではトップシェアを獲得しています。アサヒビールは、青島ビールなど有力中国メーカーに資本参加して、グローバルブランド戦略により中国全土を攻めるなど市場獲得の戦略は様々です。
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青島 |
600ml |
3.9元 |
ハルピン |
600ml |
3.9元 |
バドワイザー |
600ml |
6.5元 |
ハイネケン |
600ml |
10.5元 |
麒麟一番搾 |
640ml |
5.8元 |
サントリ 清爽 |
610ml |
2.8元 |
タイガー |
640ml |
6.7元 |
朝日 超純 |
630ml |
3.9元 |
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ビール消費量の推移 |
世紀聯華スーパーでのビール価格 |
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≪急成長するワイン市場≫
ビールと同じく中国ではワインの市場も急速に拡大しています。中華料理店に行くと、焼酎や日本酒はもちろんありませんが、中国産ワインや外国産ワインは普通にメニューに入っています。ジェトロ上海の現地スタッフによると結婚式でもワインをよく飲むそうです。中国人の食生活が西洋化したことや、白酒のようにアルコール度数が高くなくて、ポリフェノールなどの健康面も人気上昇の理由だと思います。中国のワイン消費量は直近の5年間で2倍近い伸びとなっています。一方、白酒などのアルコール度数の高いお酒は消費量が逆に減少しています。日本と同じようにアルコール度数の低いお酒へのシフトが中国でも起こっているのです。
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世紀聯華スーパーのビールコーナー |
キリンのキャンペーンガール |
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国産ワインメーカーは「長城」、「王朝」などをはじめ約500社あるといわれています。全体的に味も香りも薄いという感じで、まだまだ輸入ワインに比べると洗練されていない感じです。中国のワイン市場の2割以上を占めるといわれている輸入ワインは近年急速に伸びており、2005年から2007年で約2.8倍に増加しています。カルフールや世紀聯華などのスーパーに行ってみると、ワインコーナーにかなりのスペースを取っているのがわかります。カルフールでは長さ25メートルの6段棚に輸入ワインを、その半分くらいのスペースに国産ワインを並べるほどの力の入れようです。白ワインよりも赤ワインがメインで、価格をみると国産のワインは40元~100元くらいの比較的安い価格で売られています。一方、輸入ワインは、フランス、ドイツ、イタリア、アメリカ、オーストラリア、チリ産などで、価格は100元~300元くらいです。外国人が多く居住する虹梅路にあるフランスワイン専門ショップの除蕾さんによれば、お客は半数以上が外国人ですが、最近はギフトを含めボルドーのワインを求める中国人客が増えているとのことです。ワインは着実に文化の壁を越えて中国に根付きつつあるようです。こうした状況に日本企業も動きました。大きな需要が見込んで、今年9月、アサヒビールが丸紅、江蘇省のビールメーカーと合弁会社を設立し、輸入原料によるワインの製造を開始しました。安全・安心・高品質なワインを中間層から富裕層向けに販売していくそうです。
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カルフールのワイン売り場 |
仏ワイン専門ショップの徐蕾さん |
≪焼酎はまだまだ日本人市場が中心≫
上海には5万人以上の日本人が生活しており、600店以上の日本食レストランがあることから、いろんな種類の焼酎や日本酒を楽しむことができます。日本で日本酒・焼酎の消費が伸び悩む中、成長する中国市場に売り込もうと2004年以降、多くの日本酒・焼酎メーカーが中国に輸出をするようになりました。現在、中国では300~400の焼酎銘柄があると言われています。大分県では三和酒類、八鹿酒造、老松酒造、久保酒造場などのメーカーが定期的に焼酎を中国市場に輸出しています。ただ、中国で日本のお酒といえばやはり日本酒というイメージを持つ中国人が大半で、焼酎そのものを知らない人がほとんどです。よって今のところ焼酎は日本人市場に限られているのが現状です。日本から焼酎を輸入している上海の日系商社関係者によれば、今は日本人市場のパイの奪い合いになっており、どうやってパイを中国人に広げて行くかが課題と言います。この商社は各種イベントに参加して焼酎をPRする一方で、メーカーと一緒になって、中国人の若者を集めての試飲会や、日本語学校で焼酎講座を行っているそうです。フランスのワインは20年近い市場開拓を行ってきました。焼酎は本格参入してまだたったの5年あまりです。もともと焼酎を飲む文化のない中国で、どうやって焼酎を広めていくか焼酎メーカーの模索が続きます。
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日本食品店の焼酎コーナー |
日本料理店でキープされている焼酎 |
(以上) |