鳥インフルエンザは収束したのか |
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つい最近、中国で鳥インフルエンザH5N1型ウィルスの人への感染死亡事例が公表されました(2007.6.6中国衛生部)。今回の患者は、人民解放軍の兵士ということから、発生場所は明らかにされませんでしたが、今年になって3人目の感染例です。人への感染は2005年8人、2006年13人が確認されており、これまでに16人が死亡しています(WTOへの報告数)。
中国での鳥インフルエンザの発生件数は、2004年50件、2005年31件、2006年10件(中国農業部発表)と年々減少しています。2007年になってからは、チベット自治区と湖南省の2件しか発表されていません。鳥の発症報告は年々減っていますが、はたして鳥インフルエンザは収まっているのでしょうか。 <感染源は渡り鳥> 中国には、8つある世界規模の渡り鳥の経路が3つも横断しています。シベリアからアフリカに渡る経路、シベリアからインド亜大陸に渡る経路が西部内陸地区を、シベリアから日本やオーストラリアに渡る経路が東部沿岸地区を通っているのです。渡り鳥には国境検疫がないので、ウィルスは国境を越えて運ばれます。渡り鳥が休む湖沼の多い地域では、これまでに鳥インフルエンザの症例が多数確認されています。 長江流域の湖沼地帯では、アヒルやガチョウなどの家禽を大量に放し飼いしているため、感染の可能性は非常に高いのです。家禽の飼育をすべて室内でやれば感染の可能性は低くなるのですが、国土が広く、人口の多い中国では不可能です。せめてもの予防は、飼い鳥にワクチンを注射しておくことで、政府もその対策はすすめています。 先ほどあげた2006年10件という発生件数に、渡り鳥の症例は入っていません。2006年は青海省とチベット自治区で3,641羽の渡り鳥の死亡が確認されていますが、これは統計外です。年々家禽の発生件数が減っているというのは、予防措置が効果を奏しているということなのでしょうか。 <減った鳥インフルエンザ報道> 2006年に106億羽にワクチン投与したとされますが、中国の家禽飼養数140億羽の75%です。いかに予防が行き届いたとはいえ、この広い国土で、2004年に50件も発生していたものが、2006年に10件と、80%も減少したというのを額面どおり受け取っていいものかと思うのです。 現に人への感染事例は増えているのですから。鳥の症例の調査や発表は農業部が管轄しており、人への感染は衛生部が管轄しています。人への感染があるということは、鳥がすでに感染していたということなのですが、人の感染が確認されても、同じ地域での鳥インフルエンザ発症の報告はほとんどないのです。管轄違いからか、発生源の追究はあまりなされないようです。 農業部は全国に連絡網を作り、発症を発見したら随時報告するよう体制を整えているといいます。2006年には110件もの通報があったとしています。それにしても110件のうち(鳥以外も含まれているにしても)確認されたのが10件だけだというのは少なすぎる気がします。捜査の段階で「もみ消し」があったとしか思えません。 地方政府にすれば、鳥インフルエンザが発生してもできれば報告したくないというのがホンネだと思います。ひとたび発生すると、半径3キロ以内を封鎖して、区域内の鳥類を殺処分、消毒しなければなりません。処理したのちも、21日間は封鎖です。殺処分した家禽に対しては補償金を支払わなければなりません。その数は一度に数千羽から数十万羽にのぼります。補償金は国が出すとしても、地域経済へのダメージは大きいのです。その地域の畜産品が売れずに価格が暴落しますから、周辺農民の恨みを買うことになります。疫区内の農民は補償金をもらえても、やはりその後の生活は成り立ちません。 したがって、仮にある村で鳥が大量死したとしても、それを密かに処分し、「地域ぐるみ」で隠蔽しているところがかなりあるのではと危惧されるのです。 農業部の発表の内容も、2005年には、いつどこで何羽発症し、何羽死亡し、何羽殺処分したと具体的で、ネット上で発生状況の表なども出していたのですが、このところの発表は、具体的な数字も出さずにおざなりな感じがします。また発生地からの報告で見つかるのではなく、サンプル検査で見つかったという事例が多いのです。 <通報者の逮捕> 2005年10月に安徽省天長市で鳥インフルエンザが発生しました。これは、隣接する江蘇省高郵市の農民が農業部に通報したことで発覚したもので、通報者喬松挙氏は雑誌『時代人物』で時の人としてインタビューまでされました。ところが、11月24日、高郵市のある農家でガチョウが死んだことを彼が再度通報した直後、警察に逮捕されてしまったのです。逮捕の容疑は、2003年7月から2005年2月にかけての4件の詐欺と6件のゆすりでした。彼は、各地の獣医研究所などから、ニセモノや無許可のワクチンに対する賠償金を騙し取ったり、通報するとおどしてゆすったりしたというのです。 しかし、2年も前の案件でなぜこの時期に逮捕されたのでしょうか。ニセのワクチン製造で彼に通報された獣医研究所等はそれぞれに多額の罰金を科せられています。こうした関係からのうらみつらみ、鳥の値段が暴落した天長市畜産関係者からのうらみつらみ、地元で発症事件を出したくない政府関係者の思惑等が一致して喬氏逮捕となったのではないかと思うのです。一審有罪を経て、2006年9月30日、二審も懲役3年6ヶ月、罰金3万元の判決が出されました(中国は二審制)。 容疑が事実か冤罪かは別として、このようなことが起こればすすんで通報する人はあまりいなくなるでしょう。 では、インフルエンザの発症やニセワクチンを通報することで国家に貢献した人物を、なぜ農業部は一切弁護しなかったのでしょうか。実は、国も一方で通報を奨励しながら、本当はあまり通報が増えてもらっても困るというのがホンネなのではないでしょうか。通報があれば捜査しなければならない、事実があれば発表しなければならない、膨大な補償費も発生する。そんな中、地方が隠す分にはある程度目をつぶっても‥逆にそれほどに事態は深刻なのかも‥‥と思うのは勘ぐりすぎでしょうか。 <忘れた頃にやってくる> はじめに書いたように、鳥インフルエンザの発症例は減っています。しかし確認されていないというだけで、本当はもっと出ているはずです。現に人に感染していても鳥の発症は報告されないのです。一番こわいのは人から人に感染するウィルスが出てきたときです。隠蔽や野放しが常態化して、人から人への感染が隠蔽されることがないように、国際社会は中国政府に報告体制の強化と情報公開を強く要求していく必要があると思います。 |
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