日中経済協会上海事務所 大分県経済交流室 駐在員レポート
上海焼肉事情
<増える焼肉店>

     上海市内には日本料理店が400店あまり、そのうち焼肉専門店も年々増加している。中には人気があるため予約なしでは座れない店もあるほどだ。焼肉店の様子は日本と大差ないが、他の日本料理店に比べて中国人客も多いようである。味について言うならば日本とはかなり

     「開き」がある。日本の「霜降り牛肉」のような上等な肉はあまり見られず、現在はまだ産地やグレードへのこだわりも少ないようだ。

     そもそも中国では「肉」といえば豚肉であり、牛肉の消費量は比較的少ない。例えば2004年の上海市都市住民の年間平均消費量は、豚肉18.4キロ、家禽11.8キロに対して牛・羊肉は2.5キロである(「上海統計年鑑」)。また中国の年間国内生産量も豚肉4,702万トンに対し牛肉は676万トンで豚肉の1/7しかない(「中国統計年鑑」)。ただ、「中国人は牛肉が嫌い」なわけではなく、従来は伝統的に食べる習慣がなかったということである。最近では「火鍋」(中国風の寄せ鍋)料理のブームで、羊肉や牛肉の消費が飛躍的に高まっており、また焼肉を好む人も多い。

     中華料理には焼き網や鉄板で肉をあぶって食べるというスタイルはないことから、中国で焼肉といえば韓国式か日本式ということになる。現在、上海市内に韓式焼肉店は約300店、日式焼肉店は約50店あるといわれる。

<黒毛牛のルート>

     中国の牛肉の産地は、河南、河北、山東、吉林省など華北、東北地域に多い。牛肉の対象となる牛は「黄牛」といわれる農耕牛の系統や、水牛が多い。韓国式焼肉はタレの味で勝負し、日本のように肉そのものの品種やグレードにはうるさくないため、主にこうした肉を使用している。かつて上海の日本式焼肉店も、中華料理や韓国料理と同じ牛肉を使用していたが、近年になって、霜降りの「黒毛和牛」を使用しているという宣伝文句で差別化をはかる店が次々と現れた。なかには、「神戸牛」や「松阪牛」を出すという店もある。

     ただし、日本は中国から狂牛病発生国に指定され、中国への牛肉の輸出は禁止されている。従って、もし「神戸牛」や「松阪牛」という日本産の牛肉が出回っているとすれば、それは通常ルートで入ってきた商品ではない可能性が高い。

     中国で食べることのできる「黒毛和牛」には大きく二つのルートがある。一つは「オーストラリア産」で、もう一つは「中国産」である。

     2004年中国の牛肉輸入は、オーストラリアからがもっとも多く、2,147トン(生鮮・冷蔵・冷凍、骨付き・骨なし合計、以下同)であった。次いでニュージーランド825トン、ブラジル422トンの順である。米国からは41トンで、2002年の8,422トンから著しく減少している(「税関統計」)。

     オーストラリア産牛肉の中には、黒毛牛の血統のものがあり、それらのうち上質のものが「黒毛和牛」として日本式焼肉店で出されている。

     一方、中国産の黒毛牛の流通ルートが確立されたのは、つい最近のことである。

     20058月に日中合弁で遼寧省に設立された大連兼松雪龍食品有限公司は、瓦房店市(大連郊外)の「雪龍牧場」で黒毛和牛の血統を肥育し、併設の食肉センターで加工し、中国各地に販売している。肥育技術は、鹿児島県の業者が指導している。現在牧場には約1万頭肥育されており、2年後には15,000頭に増加する予定である。

<はじめての密輸牛肉摘発>

     20064月、上海市出入境検験検疫局は市内の食品会社や卸売市場の検査を行い、日本、米国、カナダから密輸された牛肉2トン余りを押収した。このニュースが5月10日付けの新聞で一斉に報道され、狂牛病発生地域からの牛肉密輸に対し警告が発せられる形となった。

     この摘発報道を受けて、日本式焼肉店でもフリーペーパーに載せる広告から「黒毛和牛」や「神戸牛」などといった表記を減らし、「黒毛牛」という表記にとどめるものが増えたようである。上海で、前述した大連雪龍黒牛の販売代理店をつとめる上海百蘭王貿易発展有限公司の夏木真俉総経理は、こうした動きは「中国産牛肉にとっては追い風になるだろう」と語った。

<動き出す肉牛産業>

     焼肉などの牛肉需要拡大をビジネスチャンスとして、中国国内での上質肉牛生産が本格化している。

     税関統計によれば、2002年に9,000頭、2003年に41,000頭、2004年に69,000頭と、この3年間で約12万頭の種牛がオーストラリアから輸入された。

     遼寧省には「雪龍黒牛」のほかに、オーストラリアから導入したアンガス牛(イギリス原産の黒毛牛)を大規模に飼育している「大連華牧集団」もあり、焼肉用牛肉の一大生育地が形成されつつある。

     また「焼肉文化」は地方都市にも徐々に波及しようとしている。大分県で建設業を経営する深田栄次氏は、2002年に単身で湖北省の荊州市に乗り込み、牧場経営を始めた。今後、中国でも焼肉を食べる時代が来るだろうと見込んで、研修生受け容れなどで縁のあった荊州市に投資をした。現在、黒毛アンガス牛を約200頭肥育しており、省都の武漢市に焼肉店を開く準備中をしている。

<今後の展開>

     魚が中心の日本料理は、地方都市に浸透しにくいのに対し、焼肉は中国人社会に比較的簡単に受け入れられやすいのではないだろうか。羊肉しゃぶしゃぶの「火鍋」料理がここ5年の間に中国で急速に拡大したように、日式焼肉が中国全土に拡大することも十分に考えられる。焼肉が普及すれば、それを中心としてロースター、炭、タレ、サイドメニューなどの分野でのビジネスチャンスも発生する。また、日本からの牛肉の輸入が解禁されれば本物の「黒毛和牛」も流通することになり、富裕層を中心に顧客層の幅、数も更に増加すると思われ、今後の展開に注目していきたい。

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